・・・赤坂だったら奴の肌脱、四谷じゃ六方を蹈みそうな、けばけばしい胴、派手な袖。男もので手さえ通せばそこから着て行かれるまでにして、正札が品により、二分から三両内外まで、膝の周囲にばらりと捌いて、主人はと見れば、上下縞に折目あり。独鈷入の博多の帯・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・寒い、寒い天気の日などは、朝から晩まで、その霜柱が解けずに、ちょうど六方石のように、また塩の結晶したように、美しく光っていることがありました。そのそばに生えている青木の葉が黒ずんで、やはり霜柱のために傷んで葉はだらりと垂れて、力なく下を向い・・・ 小川未明 「小さな草と太陽」
・・・この石は何だろうと云っていたら、居合わせた土地のおじさんが「これは伊豆の六方石ですよ」と教えてくれた。なるほど玄武岩の天然の六方柱をつかったものである。天然の作ったものの強い一例かもしれない。 御濠の石垣が少しくずれ、その対岸の道路の崖・・・ 寺田寅彦 「静岡地震被害見学記」
・・・に現われた直木的科学万能論と共に、六方を踏みながらファッショの陣営へ乗り込んだ。「俺は何んにでもなってやる」と云いながら決してコムミュニストにならずファッシストになったところに実に津々たる興味がある。何んにでもなれるのではない、ファッシ・・・ 宮本百合子 「ブルジョア作家のファッショ化に就て」
出典:青空文庫