・・・この人生に最も貴い愛、母親に抱かれながら、火の中にも、水の中にも、ほゝえんで入る子供の母親を信ずるにも等しい、人類に根ざす共存の愛の精神は全くブルジョア階級に死んで、独り無産階級にのみ生きている。蓋し、この愛の高潮でなければならないと信じま・・・ 小川未明 「民衆芸術の精神」
・・・を求めねばならぬ所以であり、他人の天命を完うするとともに、自己の天命を完うするという共存共栄の道が実践的には矛盾と撞著を生ずる故、その場合の行為選択の標準がなくてはならない。他人の家の火災と、自分の入学試験の受験とがぶつかったとき、いずれを・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・普通妥当の真理への忠実公正というだけでなく、同時代への愛、――実にそのためにニイチェのいわゆる没落を辞さないところの、共存同胞のための自己犠牲を余儀なくせしめらるる「熱き腸」を持たねばならない。彼は永遠の真理よりの命令的要素のうながしと、こ・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・そしてそのような他人の労作の背後には人間共存の意識が横たわっているのであり、著者たちはその共生の意識から書を共存者へと贈ったものである。 したがって、書を読むとはかような共存感からの他人の贈る物を受けることを意味する。 人間共存のシ・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・人間共存同悲とは、かかる心持をいうのであって、これなくしては共同体の真の結紐はできないのである。また人と人との結合は一つの運命であって必ずしもそれが世法に相応しく行われるとは限らないものである。そこに個人生活と社会生活との不調和を生じて悲劇・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・ この一見相反する二つの命題は実は一つのものの互いに対立し共存する二つの半面を表現するものである。この見かけ上のパラドックスは、実は「あたま」という言葉の内容に関する定義の曖昧不鮮明から生まれることはもちろんである。 論理の連鎖のた・・・ 寺田寅彦 「科学者とあたま」
・・・しかし実際の事がらは決してこのように簡単ではなくて、人々の感覚は気温と共存する湿度、気圧風速日照等によるのみならず、人々のその瞬間以前におけるありとあらゆる物理的生理的心理的経験の総合された無限に多元的な複合の無限な変化によって、無限に多様・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ こんな事を考えていたのであるが、今年の夏房州の千倉へ行って、海岸の強い輻射のエネルギーに充たされた空間の中を縫うて来る涼風に接したときに、暑さと涼しさとは互いに排他的な感覚ではなくて共存的な感覚であることに始めて気が付いたのである。暑・・・ 寺田寅彦 「さまよえるユダヤ人の手記より」
・・・ギリシャの昔から日本の現代まで、いろいろの哲学の共存することだけはちっとも変りがないものと見える。 寺田寅彦 「ピタゴラスと豆」
・・・たとえば、硯と墨とか坊主と袈裟とか坊主と章魚とかいうように並用共存の習慣あるいは形状性能の類似等から来るものもあり、あるいは貧と富、紅と緑のような対照反立の関係から来るものもある。しかしこれらはかなりまですべての人間に共通普遍なもので、従っ・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
出典:青空文庫