・・・しかも裁判を重ねた結果、主犯蟹は死刑になり、臼、蜂、卵等の共犯は無期徒刑の宣告を受けたのである。お伽噺のみしか知らない読者はこう云う彼等の運命に、怪訝の念を持つかも知れない。が、これは事実である。寸毫も疑いのない事実である。 蟹は蟹自身・・・ 芥川竜之介 「猿蟹合戦」
・・・そのために、逮捕せられ、あらゆるひどい拷問に付せられたが、共犯者を白状しなかった。 以上は、「義人ジミー」のホンの荒筋である。枚数が長くなることが気になって非常に不完全にしか書けなかった。 こゝには、インタナショナルの精神と、帝国主・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・ 俺はだまって、その方へ歩き出した。 アパアト住い「南房」の階上。 独房――「No. 19.」 共犯番号「セ」の六十三号。 警察から来ると、此処は何んと静かなところだろう。長い廊下の両側には、錠の・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・私は卒業しなかった。兄たちは激怒したが、私はれいの泣訴した。来年は必ず卒業しますと、はっきり嘘を言った。それ以外に、送金を願う口実は無かった。実情はとても誰にも、言えたものではなかった。私は共犯者を作りたくなかったのである。私ひとりを、完全・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・こうしておいて後にそろそろ被告の運命を明るい方へ導くために、今度は有利な側の証人を招集する段取りになる。共犯嫌疑者田代公吉は弁護士梅島君のところに、不都合にも、「かくまわれ」ていて、そうして懸命に彼の社長殿と夕刊嬢とを捜している。雪の日のミ・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・わざと、下駄を叩きへ打っけるんだ。共犯は喜ぶ。私も嬉しい。 ――しっかりやろうぜ。 ――痛快だね。 なんて言って眼と顔を見合せます。相手は眼より外のところは見えません。眼も一つだけです。 命がけの時に、痛快だなんてのは、まっ・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・起訴の第一次の段階で事件の全貌がいかにつかまれていたか、はっきりしていたかについて、また発車が人意か共犯か否かについても起訴状は明かでない。」 栗林弁護人も竹内被告の起訴状について共謀、謀議などの言葉の意味についてたずねる。 裁判長・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・我々は希望するしないに拘わらず、生粋の放蕩者ユロ男爵を遂に社会のどん底につき落したパリの美人局、従妹ベットの共犯者マルヌッフ夫妻の住んでいるぞっとするような湿っぽいルーブルの裏通りへ連れ込まれる。マルヌッフ夫婦の悪行で曇った食事皿の中の隠元・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・それは共犯者の愛着に過ぎなかったが、しかし私はそれを秘められた人間的な愛の代償として快く迎えた。その世界では彼らは皆私の先達であった。彼らは私の眼に、世界と人間とが尽くることなき享楽の対象であることの、具体的な証左であった。そのころの私には・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫