・・・細い板の上にそれらのどれかをくくりつけ、先の方に三本ほど、内側にまくれたカギバリをとりつける。そして、オモリをつけて沈めておくと、タコはその白いものに向かって近づいて来る。食べに来るわけではなく、どういう考えか知らないが、白いものの上に坐る・・・ 火野葦平 「ゲテ魚好き」
・・・それからまたズーズーズーズー行く中に急に明りがさしたから、見ると右側に一面にスリガラスを入れた家がある。内側には灯が明るくついて居るので鉢植の草が三鉢ほどスリガラスに影を写してあざやかに見える。一つは丸い小い葉で、一つは万年青のような広い長・・・ 正岡子規 「熊手と提灯」
・・・試にその顔の恰好をいうと、文学者のギボンの顔を飴細工でこしらえてその顔の内側から息を入れてふくらました、というような具合だ。忽ち火が三つになった。 何か出るであろうと待って居るとまた前の耶蘇が出た。これではいかぬと思うて、少く頭を後へ引・・・ 正岡子規 「ランプの影」
・・・ 扉の内側に、また変なことが書いてありました。「鉄砲と弾丸をここへ置いてください。」 見るとすぐ横に黒い台がありました。「なるほど、鉄砲を持ってものを食うという法はない。」「いや、よほど偉いひとが始終来ているんだ・・・ 宮沢賢治 「注文の多い料理店」
・・・ わたくしは半分わらうように半分つぶやくようにしながら、向うの信号所からいつも放して遊ばせる輪道の内側の野原、ポプラの中から顔をだしている市はずれの白い教会の塔までぐるっと見まわしました。けれどもどこにもあの白い頭もせなかも見えていませ・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・程なく、彼女は、室の内側に開く扉のかげにはりついたような形をして首だけ彼に向けながら「依岡様からお電話でございます。あの――」 何故か、れんはこの時総入歯の歯を出してにっと笑った。「旦那様の御加減はいかがでございますかと仰云って・・・ 宮本百合子 「或る日」
・・・ところが、どうしたのか前の方の形は実に素晴らしいのに、後で見ると、踵がまるで曲って内側に減り込んでいる。形が、子供の運動には余り不適当なので、あんなに歪んでしまったのだろう。それ故、歩くのが平らかに行かない。どうしても、きく、きく、と足が捩・・・ 宮本百合子 「思い出すかずかず」
・・・その直ぐ向うは木槿の生垣で、垣の内側には疎らに高い棕櫚が立っていた。 花房が大学にいる頃も、官立病院に勤めるようになってからも、休日に帰って来ると、先ずこの三畳で煎茶を飲ませられる。当時八犬伝に読み耽っていた花房は、これをお父うさんの「・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
一 村では秋の収穫時が済んだ。夏から延ばされていた消防慰労会が、寺の本堂で催された。漸く一座に酒が廻った。 その時、突然一枚の唐紙が激しい音を立てて、内側へ倒れて来た。それと同時に、秋三と勘次の塊りは組み合ったまま本堂の中へ・・・ 横光利一 「南北」
・・・左右から内側へ曲げられた女の姿勢と、窓や羽目板の垂直の線と、浴槽の水平線と、――それで画が小気味よく統一せられている。さらに湯槽や、女の髪や、手や、口や、目や、乳首や、窓外の景色などに用いられた濃い色が色彩の単調を破るとともに、全体を引きし・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫