・・・そして、代替りゆえ、思い切って店の内外を改装し、ネオンもつけて、派手に開店しなはれ、金はいくらでも出すと、随分乗気になってくれた。 名前は相変らずの「蝶柳」の上にサロンをつけて「サロン蝶柳」とし、蓄音器は新内、端唄など粋向きなのを掛け、・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・ やがて、一同が枕頭に集って、綿の筆で口の内外へ水を塗ってやりました。私が「基次郎」と呼ぶと、病人はパッと眼を見開きますが「お母さんだぜ、分って居るか」と言っても何の手応えもなく直ぐまた眼を閉じて仕舞います。漸々と出る息が長く引く息は短・・・ 梶井久 「臨終まで」
・・・日本は今その内外の地位に一大飛躍を要求されているときであり、国の建てなおしをする劃期的時代を産む陣痛状態にあるのである。このときに際して、日本の婦人はその事業を男子のみに任せておくことなく、「時代を産む母」としての任務を自覚して立ち上らねば・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・ 商品とかえられて持ちだされてきいたルーブル紙幣は、十二銭内外で、サヴエート国内でただ一カ所密売買をやっている、浦潮の朝鮮銀行へ吸収されて行った。 鮮銀はさらに、カムチャッカ漁場の利権を買ってる漁業会社へ、一ルーブル十八銭――二十銭・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・私は家の内外を、もっともっと見て廻りたかった。ひとめ見て置きたい所がたくさんたくさんあったのだ。けれどもそれは、いかにも図々しい事のようだから、そこの小さい窓から庭を、むさぼるように眺めるだけで我慢する事にした。「池の水蓮は、今年はまあ・・・ 太宰治 「帰去来」
・・・一、十二年七月より十三年十月末まで、東京より四、五時間以上かかって行き得る保養地に、二十円内外の家借りて静養。 右の如く満一箇年、きびしき摂生、左肺全快、大丈夫と、しんから自信つきしのち、東京近郊に定住。 なお、静養中の仕事は、・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・例えば地球上のある区域内に向う何年の間に約何回内外の地震がありそうであるというような事は、適当な材料を基礎として云っても差支えはないかもしれない。しかし方数十里の地域に起るべき大地震の期日を数年範囲の間に限定して予知し得るだけの科学的根拠が・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・ 火山の爆音の異常伝播については大森博士の調査以来藤原博士の理論的研究をはじめとして内外学者の詳しい研究がいろいろあるが、しかし、こんなに火山に近い小区域で、こんなに音の強度に異同のあるのはむしろ意外に思われた。ここにも未来の学者に残さ・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・今日この劇場内外の空気の果して時代の趨勢を観察するに足るものであったか否か。これまた各自の見るところに任すより外はない。 わたしは筆を中途に捨てたわが長編小説中のモデルを、しばしば帝国劇場に演ぜられた西洋オペラまたはコンセールの聴衆の中・・・ 永井荷風 「十日の菊」
・・・わたくしは近年東京市の内外に某処の新公園、または遊園地の開かれたことを聞いているが、わざわざ杖を曳く心にはならない。それよりは矢張見馴れた菊塢が庭を歩いて、茫然として病樹荒草に対していた方が、まだしも不快なる感を起すまいと思うのである。・・・ 永井荷風 「百花園」
出典:青空文庫