・・・もっともこれは、事件の性質上修理や修理の内室には、密々で行わなければならない。彼は、ここまで思案をめぐらした時に、始めて、明るみへ出たような心もちがした。そうして、それと同時に今までに覚えなかったある悲しみが、おのずからその心もちを曇らせよ・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・ 何が何でも、一方は人の内室である、他は淑女たるに間違いない。――その真中へ顔を入れたのは、考えると無作法千万で、都会だと、これ交番で叱られる。「霜こしやがね。」と買手の古女房が言った。「綺麗だね。」 と思わず言った。近優り・・・ 泉鏡花 「小春の狐」
・・・「邪見な口のききようだねえ、阿魔だのコン畜生だの婆だのと、れっきとした内室をつかめえてお慮外だよ、兀ちょろ爺の蹙足爺め。と少し甘えて言う。男は年も三十一二、頭髪は漆のごとく真黒にて、いやらしく手を入れ油をつけなどしたるにはあらで、短・・・ 幸田露伴 「貧乏」
出典:青空文庫