・・・家の縁側に立って南を見ると、正面に明月山、左につづく山々、右手には美しい篁の見えるどこかで円覚寺の領内になっていそうな山々、家のすぐ裏には、極く鎌倉的な岩山へ掘り抜いた「やぐら」が二つある。「やぐら」の入口の上に、今葛の葉が一房垂れている。・・・ 宮本百合子 「この夏」
・・・巡査、おかみ、円覚寺の寺男。 ○肝癪のいろいろ 十月の百花園 ○部屋をかりに行った中野近くの医者、 パオリ オランダ人。伊太利らしいパオリという名をつけて。よせ芸人一、神田辺の日本下宿一、彼の部屋・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
去年の今頃はもう鎌倉に行っていた。鎌倉と云っても、大船と鎌倉駅との間、円覚寺の奥の方であった。不便極るところで、魚屋もろくに来ず、食べ物と云えば豆腐と胡瓜。家の風呂はポンプがこわれて駄目だから、夕方になると、円覚寺前の小料・・・ 宮本百合子 「夏」
出典:青空文庫