・・・「歌集『赤光』の再版を送りますから……」 赤光! 僕は何ものかの冷笑を感じ、僕の部屋の外へ避難することにした。廊下には誰も人かげはなかった。僕は片手に壁を抑え、やっとロッビイへ歩いて行った。それから椅子に腰をおろし、とにかく巻煙草に・・・ 芥川竜之介 「歯車」
・・・ 一方、人生の精神文化は、遅々として向上せず、大衆の趣味、理想は、依然として低くあるかぎり、たま/\良書が出版されても、その再版、三版は期し難いのであります。何人も知るごとく、必ずしもよく売れる本がいゝとはいわれない。大衆性を有するもの・・・ 小川未明 「書を愛して書を持たず」
・・・女生徒は、ことしの五月に再版になりました。 昨年は、竹村書房から「皮膚と心」京都の人文書院から「思い出」河出書房から「女の決闘」が出ました。 ことしは、実業之日本社から「東京八景」が出ました。二、三日中に、文芸春秋社から「新ハムレッ・・・ 太宰治 「私の著作集」
・・・二十五六日頃再版出来のよし」などと文化史的な興味深い記述の最後に「八重子『鳩公の話』といふ小説をよこす。出来よろし。虚子に送附」と書かれている。 ホトトギスに、その小説は掲載されたのであったでしょう。発信というところに、八重子とあるから・・・ 宮本百合子 「含蓄ある歳月」
・・・ 用紙の関係で、再版がおくれた。その二年ちかくに、私たちの現実は実にひどくかわった。生活の困難は益々おびただしく、いまでは国民所得の七割が税になって、不安定も底をついたと云っていいほどだし、六・三制の予算は、僅か七億にきりちぢめられた。・・・ 宮本百合子 「再版について(『私たちの建設』)」
・・・という小説が再版されるようになったが、その中に、その小説の主人公である青年闘士が女の同情者、そして愛人と同棲生活をして、困難を経てゆくことが書かれている。ある種の人々はそれについて共産党員の間にはハウスキーパーという一つの制度があって、自分・・・ 宮本百合子 「社会生活の純潔性」
出典:青空文庫