・・・時局あて込みの幕末ものの字幕のイデオロギーなどは実に冷や汗をかかせるものである。現代の大衆はもう少しひらけているはずであると思う。もちろん営利を主とする会社の営業方針に縛られた映画人に前衛映画のような高踏的な製作をしいるのは無理であろうが、・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・たいていは退屈でなければ冷や汗の出るようなものである。しかし近ごろ見た「一本刀土俵入り」だけはたしかに退屈せず気持よく見られた。 第一にはカットからカット、場面から場面への転換の呼吸がいい。たとえばおつたと茂兵衛とが二階と下でかけ合いの・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・思い出しても冷や汗が流れる。しかしとにかくこんな西洋くさい遊戯が明治二十年代の土佐の田舎の子供の間に行なわれていたということは郷土文化史的にも多少の意味があるかもしれない。それよりも自分の生涯の上にはこんな事件が思いのほかに大きな影響を及ぼ・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・な研究になったり、ラジオでまで放送されて、当の学者は陰で冷や汗を流すのである。この新聞記事を読んだ人は相当な人でも、あたかも「椿の花の落ち方を見て地震の予知ができる」と書いてあるかのような錯覚を起こす。そうして学者側の読者は「とんでもなく吹・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・どうかして間違ってこの災害にかかると、当人は冷や汗を流して辟易し、友人らはおもしろがってからかうのである。せっかくの研究が「いかもの」の烙印を押されるような気味が感ぜられるからである。それでも気の広い学者は笑って済ますが気の狭い潔癖な学者の・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・ 私はここまで読んだ時に、当時の自分のどこかに知らぬ間に潜んでいた弱点を見抜かれたような気がして冷や汗が流れた。 その次にまたこんな事がかいてある。「自分を発展しなくてはやまない活力、これが人生を楽しむ要素である。」 亮がど・・・ 寺田寅彦 「亮の追憶」
・・・ 閭はびっくりして、背中に冷や汗が出た。「お頭痛は」と僧が問うた。「あ。癒りました」実際閭はこれまで頭痛がする、頭痛がすると気にしていて、どうしても癒らせずにいた頭痛を、坊主の水に気を取られて、取り逃がしてしまったのである。・・・ 森鴎外 「寒山拾得」
出典:青空文庫