・・・この爬虫類の標本室はちょうど去年の夏以来、三重子と出合う場所に定められている。これは何も彼等の好みの病的だったためではない。ただ人目を避けるためにやむを得ずここを選んだのである。公園、カフェ、ステエション――それ等はいずれも気の弱い彼等に当・・・ 芥川竜之介 「早春」
・・・我々は、そういう人も何時かはその二重の生活を統一し、徹底しようとする要求に出会うものと信じて、何処までも将来の日本人の生活についての信念を力強く把持して行くべきであると思う。 石川啄木 「性急な思想」
・・・ この文句の次に、出会うはずの場所が明細に書いてある。名前はコンスタンチェとして、その下に書いた苗字を読める位に消してある。 この手紙を書いた女は、手紙を出してしまうと、直ぐに町へ行って、銃を売る店を尋ねた。そして笑談のように、軽い・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・ 以上は、文章上の極めて初期に属する場合であるが、更に稍々進んで、ある程度まで自分の思想感情を文章となすことが出来る域に達した人は、往々一つの危険に出合うのである。それは自分の思想感情を、多少自由に表白することが出来るようになったところ・・・ 小川未明 「文章を作る人々の根本用意」
・・・連れのない人間の顔は友達に出会う当てを持っていた。そしてほんとうに連れがなくとも金と健康を持っている人に、この物欲の市場が悪い顔をするはずのものではないのであった。「何をしに自分は銀座へ来るのだろう」 堯は舗道が早くも疲労ばかりしか・・・ 梶井基次郎 「冬の日」
天の原かかれる月の輪にこめて別れし人を嘆きもぞする 私たちがこの人生に生きていろいろな人々に触れあうとき、ある人々はその感情の質が大変深くてかつ潤うているのに出会うものである。そして経験によるとこの種の人々は・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・そういう人は甚だ少くないが、時に気の毒な目を見るのもそういう人で、悪気はなくとも少し慾気が手伝っていると、百貨店で品物を買ったような訳ではない目にも自業自得で出会うのである。中には些性が悪くて、骨董商の鼻毛を抜いていわゆる掘出物をする気にな・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・ この文句の次に、出会う筈の場所が明細に書いてある。名前はコンスタンチェとして、その下に書いた苗字を読める位に消してある。 第二 前回は、「その下に書いた苗字を読める位に消してある。」というところ迄でした。その一句・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・人々はその出会うすべての人から教えられ、その途上に落ちているあらゆる物によって富まされる。最大なる人は最もしばしば授けられた人である。そしてすべての人心の所得をその真の源まで追跡する事が出来たら、この世界がいちばん多くの御蔭を蒙っているのは・・・ 寺田寅彦 「浅草紙」
・・・ とにかく、これでもかこれでもかと眼新しい趣向を凝らして人性の自然を極度に歪曲したものばかり見せられている際に、たまたまこういう人間らしい平凡な情味をもった童話的なものに出会うと清々しい救われたような気持がするから妙である。 ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
出典:青空文庫