・・・チラシが出来上がると、お前はそれを持ってまわり、村のあちこちに貼りつけた。そして散髪屋、雑貨屋、銭湯、居酒屋など人の集まるところの家族には、あらかじめ無料ですえてやり、仁の集まるのを待ち構えた。 もし、はやらなければ、宿賃の払いも心細い・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・関東震災のおかげで大学に地震研究所が設立されると同時に自分は学部との縁を切って研究所員に転じ、しばらくの間は工学部のある教室のバラックの仮事務所に出入りしていて、研究所の本建築が出来上がると同時にその方に引越した。こうして転々と居所を変えて・・・ 寺田寅彦 「埋もれた漱石伝記資料」
・・・ それで家が出来上がる少し前から、私はランプを売る店を注意して尋ねていた。 散歩のついでに時々本郷神田辺のガラス屋などを聞いて歩いたが、どこの店にも持合わせなかった。それらの店の店員や主人は「石油ランプはドーモ……」と、特に「は」の・・・ 寺田寅彦 「石油ランプ」
・・・やがて二の腕へ力瘤が急に出来上がると、水を含んだ手拭は、岡のように肉づいた背中をぎちぎち磨り始める。 手拭の運動につれて、圭さんの太い眉がくしゃりと寄って来る。鼻の穴が三角形に膨脹して、小鼻が勃として左右に展開する。口は腹を切る時のよう・・・ 夏目漱石 「二百十日」
出典:青空文庫