・・・ ここに於て、必然子供の出生と云うことに就ては、多くの場合、明かな意識が加えられて来ます。日本のように、結婚すると間もなく、両親の精神さえ鎮まらないうちに、只管子供の為に忙殺されてのみ日を送るような生活ばかりを、彼等はよしとしていません・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・理性の出生は遅すぎたかもしれないが今現われてくれたことは、ほかのどのときにおいてよりも、彼女にとって幸福な、ほんとに役立たれる場合であったのである。 彼女は微かに、自分の性格が、根本的にある変化を与えられようとしていることに気が附いた。・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ しかしながら、一方彼にはその出生や成長した環境及び遭遇した青年期における時代的影響もあって、気弱で、情緒的で、部分的にはやや主観に傾くところもなくはない。過去における文学修業の道で「風雲」の作者がある期間室生犀星、芥川龍之介、徳田秋声・・・ 宮本百合子 「文学における古いもの・新しいもの」
・・・急速に没落した小市民の家族から出生したと云っても境遇の必然からプロレタリア的な暮しの中で成長しつつある青年ゴーリキイの心持がよくわかるのである。が、このことの中には私共を誘って、更にもう一歩奥まったゴーリキイの精神の内部へと立ち入らせるモメ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・生れた男の子によって、アンネットの母としての生活が更にどのように進展するか、生まれた息子自身は自分の出生に際してとった母の態度をどう見るか。それらのことは巻を追うて描かれてゆくのであるが、私の心に、ほんの一部分しかまだ読んでいない物語の冒頭・・・ 宮本百合子 「未開の花」
・・・此の地殻の上に何処からか生れ出たものは、その出生の地を、彼等の魂のどん底から剥ぎ取る事は出来ないのである。 静かな夜の中に坐して、記憶の裡に蘇返る「祖国」に、慄えるような愛着と、叫び度くなる程の嫌厭と恐怖とを感じる時、私は此の感動が、果・・・ 宮本百合子 「無題」
・・・かわりあいの多面さの実際としてみれば、現代文学における作家横光利一の発生、評論家小林秀雄の誕生そのものに今日につづく多くの歴史的要因がこめられていたのであるし、更に日本浪曼派の評論家保田与重郎の文学的出生には前の二人の人たちを送り出した歴史・・・ 宮本百合子 「歴史と文学」
・・・だから先日も新聞にあったように、息子の妻の入籍を親が許さなかったため、その息子の戦死と孫の出生でかえって父母の歎きが深いというような実例が生じる。改正案では、子が婚姻をするのは年齢を問わず、父母、祖父母の同意がいることになり、未成年者がそれ・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
・・・ 父才八は永禄元年出生候て、三歳にして怙を失い、母の手に養育いたされ候て人と成り候。壮年に及びて弥五右衛門景一と名告り、母の族なる播磨国の人佐野官十郎方に寄居いたしおり候。さてその縁故をもって赤松左兵衛督殿に仕え、天正九年千石を給わり候・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・ 私はその出生を予期するのが根のない空想だとは思わない。 現戦争はヨーロッパの人民全体を、戦場にあると否とにかかわらず、魂の底から震駭させた。この深刻な経験が結晶せずに終わるだろうと信ずるのは、世界のすみにあって戦争の苦しさをのんき・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
出典:青空文庫