・・・今や、プロレタリアート・農民の婦人は出産の床の中に、八百屋で買う一本の葱の中にまで、自身の熱い階級闘争を感じずにはいられぬ情勢に来ているのだ。 だが、プロレタリア作家たちは、プロレタリア・農民が解放へ向って闘う複雑な現実の一部として、あ・・・ 宮本百合子 「国際無産婦人デーに際して」
・・・十月二十八日が咲枝さんの出産予定日でしたが、本人の予感では、十一月三日の夜らしいそうです、アナオソロシ。赤ん坊は男の子らしいそうです。母親が赤いものばかり欲しがる時には男の子だそうで、咲枝さんの蒲団と枕の赤さといったら少くとも私は微熱を発す・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・丁度お産をする母が肉体的に出産を予感するようなもので、私の内部的カラクリは丁度もう作品をかくとき、或ゆとりと或客観力と経験の蓄積をもって来ている。この感じは、何と説明しましょう。実に何か内部的な一つの世界の前に扉があきかかっているのを見てい・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ ソヴェト労働法は姙娠した労働婦人に出産前二ヵ月、出産後二ヵ月の給料全額つき休暇を与えるのだ。 雑誌をかりに来てしゃべっていたエレーナが、年若い糖尿病患者の消耗性で輝やいた眼でターニャを見ながら、 ――お産の仕度にいくら貰えるの・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・母は出産のむずかしいたちで、いつも産後は難儀した。赤坊の世話は自分で出来ないで看護婦がした。その看護婦は離れた室にいることだし、商売になれすぎてもいて、夜なかにし少し赤坊が泣くぐらいのことでは、なかなか目をさまさない。それが母の心配になるの・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・ 日本全国のプロレタリアートの半数を占める婦人労働者の姙娠、出産の権利は、こんなものが一つや二つできたところで、どんな利益もうけはしない。 プロレタリアートが勝利したソヴェト同盟の政府は、まっさきに、どうかしてプロレタリアの母が丈夫・・・ 宮本百合子 「「市の無料産院」と「身の上相談」」
・・・たとえば、姙娠している労働婦人は出産前後四ヵ月の有給休暇を貰う。出産のための産院は無料だ。赤坊のキモノや何かのための支度金を二十五ルーブリから三十五ルーブリぐらいまで貰い、出産後九ヵ月間は特別に赤坊の哺育料を貰う。「母と子の相談所」と託児所・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・工場で働く婦人たちが姙娠中養生をさせられなかったことと、ちゃんとした手当もうけられず出産しなければならなかったからです。 こういう惨めな一生をブルジョア時代のロシアの勤労婦人が送らなければならなかったのは一体誰のせいなのでしょう? ・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の婦人と選挙」
・・・ ○産婦が非常に出産する。日比谷で、幾人も居る。順天堂でも患者をお茶の水に運び、精養軒へ行き駒込の佐藤邸へうつる迄に幾人も産をした。 ◎隅田川に無数の人間の死体が燃木の間にはさまって浮いて居る。女は上向き男は下向、川水が血と膏で染っ・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・姙娠、出産、保育の仕事は、女を女として認める男女同権の社会でこそ、社会的な仕事として設備され協力される。母となる困難を社会的に経済的に保証された時、婦人にとってはじめて職業と家庭というものは、人間らしい統一でもたれる。妻は、そして子は、唯一・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
出典:青空文庫