・・・ 従前は其藩にありて同藩士の末座に列し、いわゆる君公には容易に目通りもかなわざりし小家来が、一朝の機に乗じて新政府に出身すれば、儼然たる正何位・従何位にして、旧君公と同じく朝に立つのみならず、君公かえって従にして、家来正なるあり。なおな・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・氏は新政府に出身して啻に口を糊するのみならず、累遷立身して特派公使に任ぜられ、またついに大臣にまで昇進し、青雲の志達し得て目出度しといえども、顧みて往事を回想するときは情に堪えざるものなきを得ず。 当時決死の士を糾合して北海の一隅に苦戦・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・一寸突然ですがあなたはこの近在の農家のご出身ですか。」と云いました。 すると警察長はびっくりしたらしく、「全くご明察の通りです。」と答えました。「それではあなたは無断で家から逃げておいでになりましたね。お母さんが大へん泣いておい・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・しかし、日本のあらゆる官僚機構と学界のすべての分野に植えこまれている学閥の威力は、帝大法科出身者と日大の法科出身者とを、同じ人生航路に立たせなかった。「息子を世に立たせよう」という自身には封じられていた希望で、田畑を売ってまで「大学を出した・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・アナーキスト出身で著名な婦人作家で、その才能の素質と妻としておかれている偽瞞的な環境のためにアナーキズムから社会観を本質的に高められることができず、労働者弾圧にも動員される右翼の暴力団の生活に近接する機会をもつようになって、その描きてとして・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十五巻)」
・・・無産者芸術運動、その文学の分野では、自然発生的に宮嶋資夫、葉山嘉樹、前田河広一郎、江口渙その他の無産階級出身の小説家の作品が登場し、芸術理論の面では、平林初之輔、青野季吉、蔵原惟人等によってブルジョア文芸批評の主観的な印象批評に対して、文学・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・ソヴェトは、この工場管理者には、出来るだけ労働者出身で工場労働の経験を持つ党員を任命することにしているのである。 ところで、或る一つの工場で管理者は労働者で、どう働くべきかと云うことは腹から知っている正直者だとしても、その下に働く専門技・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・ジャーナリスト出身のペトロフが素材をあつめることを主に働き、詩人であるイリフが作品として書きあげてゆくという、新しい仕事ぶりで七年ほど前に完成された作品である。 主人公はオスタップ・ベンデルという山師で、北極飛行で世界に有名なシュミット・・・ 宮本百合子 「音楽の民族性と諷刺」
・・・一九一四年度ロシアの中学校、実務学校、予備学校における学生の出身階級の分布 世襲貴族の子弟 六・三 貴族及高官 一八・四 宗教家 四・八 紳士及紳商 九・六 商人、組合の親方 三二・一・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・京都妙心寺出身の大淵和尚の弟子になって宗玄といっている。三男松之助は細川家に旧縁のある長岡氏に養われている。四男勝千代は家臣南条大膳の養子になっている。女子は二人ある。長女藤姫は松平周防守忠弘の奥方になっている。二女竹姫はのちに有吉頼母英長・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫