・・・「それから、はがきの文句ですが、これからは、用事これありに付き、明日出頭すべしと書いてどうでしょう。」 一郎はわらって言いました。「さあ、なんだか変ですね。そいつだけはやめた方がいいでしょう。」 山猫は、どうも言いようがまず・・・ 宮沢賢治 「どんぐりと山猫」
・・・見ると、イ警第三二五六号 聴取の要有之本日午後三時本警察署人事係まで出頭致され度し一九二七年六月廿九日第十八等官レオーノ・キュースト殿とあったのです。 ああ、あのデストゥパーゴのことだな、これはおもしろい・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・私がよそから何心なく家へ帰って来たら、警視庁特高の山口がはり込んでいて、任意出頭の形式で所轄署へ来いということです。所轄署駒込署へ行くと、中川というこれも文化団体弾圧専門の特高が待ちかまえていて、日本プロレタリア文化連盟のことで私を調べなけ・・・ 宮本百合子 「ますます確りやりましょう」
・・・ある日甚五郎の従兄佐橋源太夫が浜松の館に出頭して嘆願した。それは遠くもない田舎に、甚五郎が隠れているのが知れたので、助命を願いに出たのである。源太夫はこういう話をした。甚五郎は鷺を撃つとき蜂谷と賭をした。蜂谷は身につけているものを何なりとも・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
・・・そこで玉王はいら立って、老年のために出頭しない者があるならば、引き出物をしても連れて来いと命じた。そのとき、四か国の境の山中に、世を離れて住んでいる老人夫婦があることを言い出したものがあった。それが取り上げられて、ついに探索隊が派遣された。・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫