・・・元来人の子に教を授けて之を完全に養育するは、病人に薬を服用せしめて其薬に適宜の分量あるが如し。既に其分量を誤るときは良薬も却て害を為す可し。左れば父母が其子を養育するに、仮令い教訓の趣意は美なりとするも、女子なるが故にとて特に之を厳にするは・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・昔日の道徳も今日の道徳も、その分量においてはさらに増減あることなく、啻に増減あらざるのみならず、古書に載するところをもって果して信とせば、道徳の量はかえって昔日に多くして、末世の今日にいたり大にその量を減じたる割合なれども、かえりみて文明の・・・ 福沢諭吉 「文明教育論」
・・・その分量よりして言わば消極的美は美の半面にして積極的美は美の他の半面なるべし。消極的美をもって美の全体と思惟せるはむしろ見聞の狭きより生ずる誤謬ならんのみ。日本の文学は源平以後地に墜ちてまた振わず、ほとんど消滅し尽せる際に当って芭蕉が俳句に・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・かような獲物はとてもわが郷里などでは得られる者ではないので、その分量の多きことにおいて、その茎の長きことにおいて、彼は頻りに誇って居る。この短い土筆は、始めのうち取ったので秉さんに笑われたのである、この長い土筆は帰りがけに急いで取ったので、・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・ことしの夏、雨といっしょに、硝酸アムモニヤをみなさんの沼ばたけや蔬菜ばたけに降らせますから、肥料を使うかたは、その分を入れて計算してください。分量は百メートル四方につき百二十キログラムです。雨もすこしは降らせます。旱魃の際には、・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・組合の中で婦人部と青年部とはよく調和して活動できるけれども、大人の男子組合員とは役員の選出の点でも、議題を出す分量でも、いろいろなことで女の人がまだまだ不満をもった状態におかれているところがある。そして、そういう職場の気分は巧に傭主につかま・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・是はスープもたっぷり一緒に呑める分量にしてはじめから水を入れておきます。家のお料理は疲れている時には、塩もつい余計と云う事になって定った分量をラジオの様に申しあげられません。何卒舌と御相談下さい。 ピローグ こ・・・ 宮本百合子 「十八番料理集」
・・・ 今まで通って居た便所に消毒薬を撒いたり、薬屋に□□(錠の薄める分量をきいたりしてざわざわ落つきのない夜が更けると、宮部の熱は九度一分にあがってしまった。 台所では二つの氷嚢に入れる氷をかく音が妙に淋しく響き主夫婦は、額をつき合わせ・・・ 宮本百合子 「黒馬車」
・・・ 現代の日本の文学へは、行動の感覚と未だ区分されていない程度のものとして意力的な感情が少くない分量でもち込まれて来ている。それは、或る場面での実感の肯定として現れて来ている。思意的な生活感情は、そのような実感の吟味から表現されるとともに・・・ 宮本百合子 「現実と文学」
・・・ 日本の新首相が施政方針演説もしないで公務員法案を押しきろうとすることは、古い政治家の厚顔な腹の力かもしれないけれども、アメリカの大統領選挙の生々しい教訓は、日本のわたしたちにも少くない分量の真実を学ばせた。自身の政策さえもたない政党が・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
出典:青空文庫