・・・十三年ばかり前、癌だと云われ、切開されそうになった経験があった。その時、まさ子はその方面では大家である専門医と議論し、頑張って到頭切開させなかった。それは後になって見ると実際癌ではなかった。幽門の潰瘍風のものであったと見え、まさ子は殆ど医者・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
・・・ 大学に入院して切開して貰ったのだけれ共、後から聞くと、自分は斯うやって死ぬ運命を与えられて居るのだから病院へ等入って、終るべき命を無理算段で延して置く事は望まないと云ってなかなかきかなかったそうである。けれ共私の母や親類の者は気を揉ん・・・ 宮本百合子 「追憶」
・・・その後私は盲腸炎を患ったが、切開することが出来なかったからいつ迄も工合わるくて、下駄が右の腹に響いて歩いてもいやな気分がつづいた。その話をきいて、又別の年長の友達が私に一つの漢方薬を教えてくれた。それをのんでいて、いくらかずつおなかのいやな・・・ 宮本百合子 「鼠と鳩麦」
・・・を守ることにならないきょうの現実を、私たちの前に切開して示している。「人間的な尊厳」に立って自由に離婚したとしても、それからさきの生活をちゃんと自由に建設してゆく社会条件が婦人にひらかれていない場合、どういうことになるだろう。 工場に働・・・ 宮本百合子 「離婚について」
出典:青空文庫