・・・ですから茂作が重病になると、稲見には曽祖母に当る、その切髪の隠居の心配と云うものは、一通りや二通りではありません。が、いくら医者が手を尽しても、茂作の病気は重くなるばかりで、ほとんど一週間と経たない内に、もう今日か明日かと云う容体になってし・・・ 芥川竜之介 「黒衣聖母」
・・・さて肝腎の相手はと見ると、床の前を右へ外して、菓子折、サイダア、砂糖袋、玉子の折などの到来物が、ずらりと並んでいる箪笥の下に、大柄な、切髪の、鼻が低い、口の大きな、青ん膨れに膨れた婆が、黒地の単衣の襟を抜いて、睫毛の疎な目をつぶって、水気の・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・色紙、短冊でも並びそうな、おさらいや場末の寄席気分とは、さすが品の違った座をすすめてくれたが、裾模様、背広連が、多くその席を占めて、切髪の後室も二人ばかり、白襟で控えて、金泥、銀地の舞扇まで開いている。 われら式、……いや、もうここで結・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・女の長い切髪の、いつ納めたか、元結を掛けて黒い水引でしめたのが落ちていた。見てさえ気味の悪いのを、静に掛直した。お誓は偉い!……落着いている。 そのかわり、気の静まった女に返ると、身だしなみをするのに、ちょっと手間が取れた。 下じめ・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
出典:青空文庫