・・・街道の傍は穀物を刈った、刈株の残って居る畠であった。所々丘のように高まって居る。また低い木立や草叢がある。暫く行くと道標の杙が立って居て、その側に居酒屋がある。その前に百姓が大勢居る。百姓はこの辺りをうろつく馬鹿者にイリュウシャというものが・・・ 著:アンドレーエフレオニード・ニコラーエヴィチ 訳:森鴎外 「犬」
・・・黄いろくからびた刈株をわたッて烈しく吹きつける野分に催されて、そりかえッた細かな落ち葉があわただしく起き上がり、林に沿うた往来を横ぎって、自分の側を駈け通ッた、のらに向かッて壁のようにたつ林の一面はすべてざわざわざわつき、細末の玉の屑を散ら・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・そこで兄は、さきの妻のトシエと、笹の刈株で足に踏抜きをこしらえ、臑をすりむきなどして、ざれついたり、甘い喧嘩をしたり、蕨をつむ競争をしたりしていた。 トシエは、ひょっと、何かの拍子に身体にふれると、顔だけでなく、かくれた、どこの部分でも・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・ それは薄曇りの風の弱い冬日であったが、高知市の北から東へかけての一面の稲田は短い刈株を残したままに干上がって、しかもまだ御形も芽を出さず、落寞として霜枯れた冬田の上にはうすら寒い微風が少しの弛張もなく流れていた。そうした茫漠たる冬田の・・・ 寺田寅彦 「鴫突き」
・・・洒堂の句の物二、三取り集むるというは鳩吹くや渋柿原の蕎麦畑刈株や水田の上の秋の雲の類なるべく、洒堂また常に好んでこの句法を用いたりとおぼし。しかれども洒堂のこれらの句は元禄の俳句中に一種の異彩を放つのみならず、その品格よ・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
出典:青空文庫