・・・その問題は型式的には刑事探偵が偶には出くわす問題とおなじようなものかと思われた。 問題を分析するとつぎのようになる。 問題。宅の近所のA家は新聞所載のA家と同一か。同一ならばその家の猫Bと、宅の庭で見かけた猫Cと同一か。そうだとすれ・・・ 寺田寅彦 「ある探偵事件」
・・・掏摸に金をすられた肥った年増の顔、その密告によって疑いの目を見張る刑事の典型的な探偵づら、それからポーラを取られた意趣返しの機会をねらう悪漢フレッド、そういう顔が順々に現われるだけでそれをながめる観客は今までに起こって来た事件の行きさつを一・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・同じようなわけで、裁判所におけるいろいろな刑事裁判の忠実な筆記が時として、下手な小説よりもはるかに強く人性の真をうがって読む人の心を動かすことがあるのである。 これから考えると、あらゆる忠実な記録というものが文学の世界で占める地位、また・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ これから思うと刑事巡査が正面の写真によって罪人を物色するような場合には、目前にいる横顔の当人を平気で見のがすプロバビリティもかなりにありそうだと思った。場合によっては抽象的な人相書きによったほうがかえって安全かもしれない。あるいはむし・・・ 寺田寅彦 「自画像」
・・・競馬であてて喜び極まったところを刑事につかまったのが可哀相な浅岡である。刑事がここまで追跡する径路は甚だ不明であるが、つかまりさえすればそんなことはこの芝居にはどうでもよいので、これですっかり容疑者被告を造り上げる方の仕事が完成した訳である・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・ ずっと前に、週刊ロンドン・タイムスで、かの地の裁判所における刑事裁判の忠実な筆記が連載されているのを、時々読んでみたことがある。それはいかなる小説よりもおもしろく、いかなる修身書よりも身にしみ、またいかなる実用心理学教科書よりも人間の・・・ 寺田寅彦 「ニュース映画と新聞記事」
・・・ まもなく刑事と警察医らしい人たちが来て、はじめて蚊帳を取り払い、毛布を取りのけ寝巻の胸を開いてからだじゅうを調べた。調べながら刑事の一人が絶えず自分の顔をじろじろ見るのが気味悪く不愉快に感ぜられた。B教授の禿頭の頂上の皮膚に横にひと筋・・・ 寺田寅彦 「B教授の死」
・・・命をとられる程のこともあるまいと思った彼であった。刑事や正服に護られて、会社から二丁と離れてない自分の家へ、帰ったのだった。そして負傷した身体を、二階で横たえてから、モウ五六日経った朝のことなのである。 お初が、上って来た。「検挙ら・・・ 徳永直 「眼」
・・・わしはムムネ市の刑事だ。」 ネネムはそこでやっと安心してていねいにおじぎをして又町の方へ行きました。 丁度一時間と六分かかって、三ノット三チェーンを歩いたとき、ネネムは一人の百姓のおかみさんばけものと会いました。その人は遠くからいか・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・そして、刑事問題をおこしている。取締りにあたる人々が、問題となっている作品を全部よまないで、好奇的に語られている部分だけよんで、告訴しているといわれている。それが事実ならば取りしまる立場の人々、自身の卑猥さがそのことにあらわれている。問題が・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
出典:青空文庫