・・・ わが心霊学協会は先般自殺したる詩人トック君の旧居にして現在は××写真師のステュディオなる□□街第二百五十一号に臨時調査会を開催せり。列席せる会員は下のごとし。 我ら十七名の会員は心霊協会会長ペック氏とともに九月十七日午前十時三十分・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・楠ちゃんにも列席してもらいたいとは思いますが、遠方のことでもあり、それに万事内輪にと思いますから、おまえたち兄妹の総代として鶏ちゃんに出席してもらうことにします。 とうさんがこの新しい方針を選んで進もうとするのは、いろいろ前途を熟考した・・・ 島崎藤村 「再婚について」
・・・酔いが進むに連れて、ひとりで悲愴がって、この会合全体を否定してみたり、きざに異端を誇示しようと企んだり、或いは思い直して、いやいやここに列席している人たちは、みな一廉の人物なのだ、優しく謙虚な芸術家なのだ、誠実に、苦労して生きて来た人たちば・・・ 太宰治 「善蔵を思う」
・・・祝宴に列席していた村人たちは、何か不吉なものを感じたが、それでも、めいめい気持を引きたて、狭い家の中で、むんむん蒸し暑いのも怺え、陽気に歌をうたい、手を拍った。メロスも、満面に喜色を湛え、しばらくは、王とのあの約束をさえ忘れていた。祝宴は、・・・ 太宰治 「走れメロス」
・・・それだから、記者が列席もしないのに列席したような顔をして書いても少しも不都合はない、午後に行なわれる儀式に関する原稿をその午前に書いて夕刊に出す。それで大臣がさしつかえができて出席しなくても記事にはちゃんと列席して式辞を読んだことになるので・・・ 寺田寅彦 「ニュース映画と新聞記事」
・・・あとで聞いたら、その独唱者は音楽学校の教師のP夫人で、故人と同じスカンジナビアの人だという縁故から特にこの日の挽歌を歌うために列席したのであったそうである。ただその声があまりに強く鋭く狭い会堂に響き渡って、われわれ日本人の頭にある葬式という・・・ 寺田寅彦 「B教授の死」
・・・ いつかノールウェーのビェルクネス教授が来てこの輪講会の席上で同教授一流の気象学を講じたときたいそう面白いと思って感心したが、列席のドイツ気象学者たち誰一人感心したように見えなかった。ビ教授はそれから後にアメリカへ渡ってかの地でかの著明・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
私は昨年九月四日、ニュウファウンドランド島の小さな山村、ヒルテイで行われた、ビジテリアン大祭に、日本の信者一同を代表して列席して参りました。 全体、私たちビジテリアンというのは、ご存知の方も多いでしょうが、実は動物質の・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・参観者の列席の前で、佐田は児童との初歩的な階級性を帯びた質問応答によって彼の発見しつつある新しい教育法を示威しようとしたことから、ついに反動教育と決裂する。あやまれといわれたことに対して、体じゅうをブルブルふるわし「私は詫びにきたのではあり・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ 彼は、労働者の集会に列席し、職場大会に出席し、ときには大通りの「茶飲所」やビヤホールの群集の中にまじりこんで、一般労働者の仲間の雑談をもきく。そして、彼の見聞を記録するとしても、その作家が、ソヴェト・フォード工場の建てられた社会的意義・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
出典:青空文庫