・・・ その翌日が愈々此処で葬礼と云うことなんで、その時隊の方から見送って下さったのが三本筋に二本筋、少尉が二タ方に下副官がお一方……この下副官の方は初瀬源太郎と仰也って、晴二郎を河から引揚げて下すった方なんでござえして、何かの因縁だろうから・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・夏山や神の名はいさしらにぎて藻の花やかたわれからの月もすむ忘るなよ程は雲助時鳥角文字のいざ月もよし牛祭又嘘を月夜に釜の時雨哉葛の葉のうらみ顔なる細雨かな頭巾著て声こもりくの初瀬法師 晋子三十三回忌辰擂盆・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・それから、ぽつんと、私、初瀬浪子のところに働いていたのよ、と云った。初瀬浪子というのは帝劇の痩せた女優であった。紫のしぼりの襟から真白な頸を見せて、舞台で泣き伏していた女優の姿が目に浮んで、私は、それとおけいちゃんとの結びつきを何となし意外・・・ 宮本百合子 「なつかしい仲間」
出典:青空文庫