・・・二十世紀初頭に、ロシアの地主は搾取の面から、おくれたロシアの農場の資本主義経営、労働の合理化を考えて、農場へドイツやイギリスの耕作機械を買いこんだ。 農民たちは、脱いだ帽子を手にもって地主の前へ並び、農業機械を驚きの目で見つめた。指でさ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 詩吟というものは、ずっと昔も一部の人は好んだろうが、特に幕末から明治の初頭にかけて、当時の血気壮な青年たちが、崩れゆく過去の生活と波瀾の間に未だ形をととのえない近代日本の社会の出生を待つ時期の感懐を吐露するてだてとして流行したものであ・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・作家の社会的孤立化に対する自覚と警戒、その対策が、文学の大衆化の呼声となって現れて来たのは、本年初頭からのことなのである。 こういう事情でとりあげられているきょうの文学の大衆化の問題について、二つの問題が常にこんぐらがってもち出されて来・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
・・・ 昭和十年は初頭から能動精神、行動主義文学の討論によって、活溌に日本文学の年次は開かれたのであるが、前年、これらの生活的・文学的動議が提出された当時から、知識階級についての理解、行為性の内容等のうちに含まれていた矛盾については、その・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 芥川の死の前後、昭和初頭前後から、日本の文学は、その流れの中に、昔ながらの一つ流れから只岐れたというばかりの相違ではない相異を質的に主張したプロレタリア文学が強い潮騒いをもって動きはじめた。 この文学運動が日本文学にもたらした消え・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・ 明治三十年代の初頭に、徳富蘆花が「自然と人生」という自然描写のスケッチ文集を出版しているのであるが、これは、こんにちよむと、日露戦争以前の日本文学の中で、自然がどう見られていたかを知ることができ、なかなか興味がある。蘆花は当時としては・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・この作者が田村という姓で小説を書いていた頃の写真の面影は、ふっさりと大きいひさし髪の下に、当時の日本の婦人としては感覚的なある強さの感じられる表情をうかべて、遠い大正年代初頭の記憶に刻まれている。当時この作者は、恋愛のいきさつの間で、激情的・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・ ところが、この年の初頭に一部の指導的な学者・文筆家が自由を失い、また作家のある者が作品発表の場面を封じられた事実は、文学の本質というよりも一層直接な形で作家・評論家の社会的動向に影響した。顧れば昭和九年「不安の文学」がいわれた時代、日・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
文学の分野においても、本年の初頭から民衆と知識階級との社会関係の再吟味がとりあげられて来ている。しかし、そのとりあげられかたは一種独特な色調を帯びていて、例えば、『文学界』の同人達によって喧しく提案された文壇否定、従来の意・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・ゲーテは十八世紀末から十九世紀の初頭にかけてアポロと云われたそうだけれども、ベートーヴェンの伝記をみていたら、同時代人としていろんな芸術家の写真がのこっていた。シューベルトとゲーテとの写真がそばにあって、自然見くらべられた。シューベルトの表・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
出典:青空文庫