・・・は底本では判読不可。268-上-8]ことではないか。 話は外れたが、書きにくい会話の中でも、大阪弁ほど書きにくいものはない。大阪に生れ大阪に育って小説を勉強している人でも、大阪弁が満足に書けるとは限らないのだ。平常は冗談口を喋らせる・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・余程熱心に読まねば判読しがたい、という点も勘定に入れて、全くのところ、まるで薬の信用をみずから落しているのも同然だった。 おまけに、丸薬をしかるべく包装するわけでもなく、夜店で売る「一つまけとけ」の飴玉みたいに、白い菓子袋に入れて、……・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・一度話をしたいと柳吉だけが判読出来るその手紙が、いつの間にか病人のところへ洩れてしまって、枕元へ呼び寄せての度重なる意見もかねがね効目なしと諦めていた父親も、今度ばかりは、打つ、撲るの体の自由が利かぬのが残念だと涙すら浮べて腹を立てた。わざ・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・不文、意をつくしませぬが、御判読下さいまし。十一月二十八日深夜二時。十五歳八歳当歳の寝息を左右に聞きながら蒲団の中、腹這いのままの無礼を謝しつつ。田所美徳。太宰治様。」「拝啓。歴史文学所載の貴文愉快に拝読いたしました。上田など小生一高時・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・その文字が、全部判読できたならば、私の立場の「義」の意味も、明白に皆に説明できるような気がするのだけれども、それがなかなか、ややこしく、むずかしいのである。 こんな譬喩を用いて、私はごまかそうとしているのでは決してない。その文字を具体的・・・ 太宰治 「父」
・・・蘭学の先駆者たちがたった一語の意味を判読し発見するまでに費やした辛苦とそれを発見したときの愉悦とは今から見れば滑稽にも見えるであろうが、また一面には実にうらやましい三昧の境地でもあった。それに比べて、求める心のないうちから嘴を引き明けて英語・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・ 寂びしおりを理想とするということは、おそらく芭蕉以前かなり遠い過去にさかのぼることができるであろうということは、連歌に関する心敬の言葉からも判読される。「余情」や「面影」を尊び「いわぬところに心をかけ」、「ひえさびたる趣」を愛したので・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・二十七日には私に判読出来かねる乱れた筆蹟で短い英語がかかれているだけです。 或る別の手帳をあけて見たら、何かに打ち興じた折、誰かから教わったのでしょう、支那音と註して中條精一郎と片仮名のルビを丁寧につけたのがありました。〔一九三七年・・・ 宮本百合子 「父の手帳」
・・・その点で、一部の読者が彼の作品を判読したのであるし、マーケット・プライスが保たれたのであった。「厨房日記」は嘗て高邁を称えた作家にふさわしい何物かを芸術としてのこしているのであろうか。「虚心坦懐とは日本でこそ最も高貴な精神とされているが・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
出典:青空文庫