・・・と云い合いて、別れ別れに一方は大路へ、一方は小路へ、姿を下駄音と共に消すのも、満更厭な気ばかり起させる訳でもない。 私も嘗て、本郷なる何某と云うレストランに、久米とマンハッタン・カクテルに酔いて、その生活の放漫なるを非難したる事ありしが・・・ 芥川竜之介 「久米正雄」
・・・二人の姉共と彼らの母とは、この気味の悪い雨の夜に別れ別れに寝るのは心細いというて、雨を冒し水を渡って茶室へやって来た。 それでも、これだけの事で済んでくれればありがたいが、明日はどうなる事か……取片づけに掛ってから幾たびも幾たびもいい合・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・両親に早く死に別れて、たった二人の姉弟ですから、互いに力にしていたのが、今では別れ別れになって、生き死にさえわからんようになりました。それに、わたしも近いうち朝鮮につれて行かれるのだから、もうこの世で会うことができるかできないかわかりません・・・ 国木田独歩 「少年の悲哀」
・・・そして礼がすむと、みんな順に外へ出てこんどは外へならばずにみんな別れ別れになって遊びました。 二時間目は一年生から六年生までみんな唱歌でした。そして先生がマンドリンを持って出て来て、みんなはいままでに習ったのを先生のマンドリンについて五・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・リージンは前夜六人乗の自動車を註文したのに、髭の濃いコーカサス男の運転して来た車は四人乗ともう一つは二人乗で、計らず四人組、二人組と別れ別れにならなければならなくなったのである。 リージンの大柄な口紅を濃くつけた細君は、いかにも夫の手抜・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・ 今、若し、自分に悪いことはない、此方から折れては出られないとなれば、我々にも又、Aさんに対して持って居る種々な不満や何かで、一生別れ別れに暮さなければならないことになるからだ。」 考えた後、自分は云った。「Aに悪いことがないと云う・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・「私達はもうじきに別れ別れになる時が来るんだ、キット、今日はその前兆に違いない様に思われる」 お敬ちゃんは年をとった様な声で云った。「エエ、別れ別れで居たものがこうやって一緒んなったんだから又別れ別れになる事はあるかも知れないが・・・ 宮本百合子 「芽生」
出典:青空文庫