・・・他方ではまた、少なくも現在では連句とは全く別物と思われる連作の型式から進化して行って、そうして現在の歌仙などとはかなりちがった別種の連句形式が生ずるという可能性も想像されなくはない。われわれ連句を研究するものの興味は実に主としてこの点にかか・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・それで古図がひどく間違っていたか、それともプルジェワルスキーの見たのは別物であったか、それともまた昔のロプ・ノールに注いでいた川がその後に流路を変じてその下流に別の湖水を作り元の湖水が干上がってしまったかの問題が起こった。一八九九年の探険で・・・ 寺田寅彦 「ロプ・ノールその他」
・・・千八百三十四年のチェルシーと今日のチェルシーとはまるで別物である。余はまた首を引き込めた。婆さんは黙然として余の背後に佇立している。 三階に上る。部屋の隅を見ると冷やかにカーライルの寝台が横わっている。青き戸帳が物静かに垂れて空しき臥床・・・ 夏目漱石 「カーライル博物館」
・・・新ローマン主義というも、全く以前のローマン主義とは別物である。凡そ歴史は繰返すものなりというけれども、歴史は決して繰返さぬのである、繰返すというのは間違である。如何なる場合にも後戻りをすることなく前へ前へと走っている。 教育及び文芸とて・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・あの劇がね、私の巣の中の世界とはまるで別物で、しかもあまり上等でないからだろうと思うんです。こう云うと、役者や見物を一概に罵倒するようでわるいから、ちょっと説明します。 この間帝国座の二宮君が来て、あなたの明治座の所感と云うものを読んだ・・・ 夏目漱石 「虚子君へ」
・・・両者は元来別物であって各独立したものであるというような説も或る意味から云えば真理ではあるが、近来の日本の文士のごとく根柢のある自信も思慮もなしに道徳は文芸に不必要であるかのごとく主張するのははなはだ世人を迷わせる盲者の盲論と云わなければなら・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・びで一つ二つのものが、家のあちこちにひょい、ひょいとあるのは自然にうけられるけれど、家具調度一式琉球とか朝鮮とかいうところのもので埋める趣味があるとすれば、その一つ一つがもっている美しさとは、いつしか別物なはためには何々の間と相通じたものと・・・ 宮本百合子 「生活のなかにある美について」
・・・言い換えれば、芸術のための芸術と人類のための芸術とは別物でない。この考えを深く裏づけるものは「人類」の理念であるが、しかし岸田君はこの理念について詳しく語ってはいない。時には人類を地球上の人間の総体と考える。すると、「少数の人にしか深い美は・・・ 和辻哲郎 「『劉生画集及芸術観』について」
出典:青空文庫