・・・失礼な起しましょうと口々に騒ぐを制して、朝餉も別間において認め、お前さん方が何も恐がる程の事はないのだから、大勢側に附いて看病をしておやんなさいと、暮々も申し残して後髪を引かれながら。 その日、糸魚川から汽船に乗って、直江津に着きました・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・お千代はようやく父をなだめ、母はおとよを引き立てて別間へ連れこむ。この場の騒ぎはひとまず済んだが、話はこのまま済むべきではない。 七 おとよの父は平生ことにおとよを愛し、おとよが一番よく自分の性質を受け継いだ子で、・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・続いて二三人立ちかかって、権兵衛を別間に連れてはいった。 権兵衛が詰衆に尋ねられて答えたところはこうである。貴殿らはそれがしを乱心者のように思われるであろうが、全くさようなわけではない。父弥一右衛門は一生瑕瑾のない御奉公をいたしたればこ・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・段々準備が手おくれになって済まないが、並の飯の方を好む人は、もう折詰の支度もしてあるから、別間の方へ来て貰いたいと云う事であった。一同鮓を食って茶を飲んだ。僕には蔀君が半紙に取り分けて、持って来てくれたので、僕は敷居の上にしゃがんで食った。・・・ 森鴎外 「百物語」
出典:青空文庫