・・・兄貴が造えて不当の利益を貪って居るのを、此の眼で見て知って居ながら、そんな酒とても飲まれません。げろが出そうだ、と言って、お酒を飲むときは、外へ出てよその酒を飲みます。佐吉さんが何も飲まないのだから、私一人で酔っぱらって居るのも体裁が悪く、・・・ 太宰治 「老ハイデルベルヒ」
・・・この要求を致しますのに、わたくしの方で対等以上の利益を有しているとは申されません。わたくしも立会人を連れて参りませんから、あなたもお連れにならないように希望いたします。序でながら申しますが、この事件に就いて、前以て問題の男に打明ける必要は無・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・五十人の研究の中でただの一つでも有利な結果が飛び出せば、それから得られる利益で、学者の五十人くらい一生飼い殺しにしても、なお多大の収益があるからとのことであった。戦後の世智辛さではどうなったかそれは知らない。とにかく日本などでは、まだなかな・・・ 寺田寅彦 「学問の自由」
・・・私はこんにゃく一つ売って一厘か一厘五毛の利益だったし、五十みんな売っても五六銭にしかならない。 ところが、その五十のこんにゃくはなかなか重い。前と後ろに桶に二十五ずついれて、桶半分くらい水を張っておかないと、こんにゃくはちぢかんでしまう・・・ 徳永直 「こんにゃく売り」
・・・倫敦で池田君に逢ったのは、自分には大変な利益であった。御蔭で幽霊の様な文学をやめて、もっと組織だったどっしりした研究をやろうと思い始めた。それから其方針で少しやって、全部の計画は日本でやり上げる積で西洋から帰って来ると、大学に教えてはどうか・・・ 夏目漱石 「処女作追懐談」
・・・而してその勉強の成跡は発明工風にして、本人一個の利益に非ず、日本国の学問に富を加えて、国の栄誉に光を増すものというべし。また、著述書の如きも、近来、世に大部の著書少なくして、ただその種類を増し、したがって発兌すれば、したがって近浅の書多しと・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・一俵 計 二両三十銭也 収入の部 一、金 十三両 鰻 十三斤 一、金 十両 その他見積り 計 二十三両也 差引勘定 二十両七十銭 署長利益 あんまりこんな話がさかんになっ・・・ 宮沢賢治 「毒もみのすきな署長さん」
・・・今度改正された憲法は、その中に、すべての人民は法律の前に平等であるとされていて、性別身分などの特権によって特別な利益を保護されることはないように規定されている。しかしその中に天皇という特別な一項がある。華族は世襲でなくなったが、天皇の地位は・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・そんなら工場の利益の幾分を職工に分けて遣れば好いか。その幾分というものも、極まった度合にはならない。 工場を立てて行くには金がいる。しかし金ばかりでは機関が運転して行くものではない。職工の多数の意志に対抗する工場主の一人の意志がなくては・・・ 森鴎外 「里芋の芽と不動の目」
・・・原敬の眼中にはただ自党の利益のみがあって国家がない。ところで彼の政党は私利をのみ目ざす人間の集団であって、自党の利益とは結局党員各自の私利である。彼らはこの集団の力によって政権を握り、その権力によって各自の私利をはかろうとする。しかし政治は・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫