・・・そしてまもなく、前哨線の小屋のあるところに到達した。中隊長は、前哨に送った部下の偵察隊が、××の歩哨と、馴れ/\しく話し合い、飯盒で焚いた飯を分け、相手から、粟の饅頭を貰い、全く、仲間となってしまっているのを発見して、真紅になった。「何・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・ ブルジョア軍隊を打倒することなくしては、プロレタリア革命は完全に勝利に到達することが出来ない。 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・けれども、何とかして、そこに、到達したい。右往も左往も出来ない窮極の場所に坐って、私たちは、その事に努めていた筈である。それを続けて行くより他は無い。持物は、神から貰った鳥籠一つだけである。つねに、それだけである。 大君の辺にこそ、とは・・・ 太宰治 「一燈」
・・・感傷の在りかたが、諦念に到達する過程が、心境の動きが、あきらかに公式化せられています。かならずお手本があるのです。誰しもはじめは、お手本に拠って習練を積むのですが、一個の創作家たるものが、いつまでもお手本の匂いから脱する事が出来ぬというのは・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・学生が、絶壁のなかばに到達したとき、足だまりにしていた頭ほどの石ころがもろくも崩れた。崖から剥ぎ取られたようにすっと落ちた。途中で絶壁の老樹の枝にひっかかった。枝が折れた。すさまじい音をたてて淵へたたきこまれた。 滝の附近に居合せた四五・・・ 太宰治 「魚服記」
・・・胆が太いせいでは無くて、極度の小心者ゆえ、こんな場合ただちに発狂状態に到達してしまうのであるという解釈のほうが、より正しいようである。「はははは。」と私は空虚な笑声を発した。「恥ずかしくて、きりきり舞いした揚句の果には、そんな殺伐なポオ・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・『明星』にあこがれた青年、なかばロマンチックで、ファンタスチックで、そしてまだ新しい思潮には到達しない青年の群れ――その群れを描くことについては、私にとって非常な困難があった。中学時代のかれの初恋、つづいて起こった恋愛事件、それがのみ込めな・・・ 田山花袋 「『田舎教師』について」
・・・ただ銘々の我慾の節制と相互の人間愛によってのみ理想の社会に到達する事が出来るというのであるらしい。 勿論彼は世界平和の渇望者である。しかしその平和を得るためには必ずしも異種の民族の特徴を減却しなくてもいいという考えだそうである。ユダヤ民・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・マグダレニアンの壁画とシャバンヌの壁画の間の距離はいかに大きくとも、それはただ一筋の道を長くたどって来た旅路の果ての必然の到達点であるとも言われなくはない。ダホメーの音楽とベートーヴェンの第九シンフォニーとの比較でもそうである。 映画に・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・かつて何人も実験せずまた将来も実現する事のありそうもない抽象的な条件の下に行なわるべき現象の推移を、既知の方則から推定し、それからさらに他の方則に到達するような筋道は、あるいは小説以上に架空的なものとも言われぬ事はない。ただ小説の場合には方・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
出典:青空文庫