・・・彼は窓の方へ再び向きなおった。刻み目の粗い田舎の顔の上へ、車窓をとび過る若葉照りが初夏らしく映った。〔一九二七年八月〕 宮本百合子 「北へ行く」
・・・この時期に、文化・文学の辿って来た歴史の伝統の刻み目の内容を着実に含味しようとせず、空に飛行機を舞わせつつ、文学精神の面においてだけは青丹よし寧楽の都数千年の過去にたちかえらんとしても、幻を喰って生きていられるだけの余裕に立ってそれを主唱し・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ これらの波止場人足や浮浪人、泥棒、けいず買い等の仲間の生活は、これまで若いゴーリキイがこき使われて来た小商人、下級勤人などのこせついた町人根性の日暮しとまるでちがった刻み目の深さ、荒々しさの気分をもってゴーリキイを魅した。彼等が、極端・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
出典:青空文庫