・・・このままの形で降ったものか、それとも大きな岩塊の表層が剥脱したものか、どうか、これだけでは判断しにくいが、おそらく後者であろう。こんな薄っぺらなものが噴出されたとしても、空中で衝突し合って砕けやすいであろうし、また落下の衝動でも割れないわけ・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・そのために、封建的な自我の剥脱に抗する心持と、新しい社会的事情に向っての闘争の過程で自己を拡大するため、集団的、階級的な形態で自我が認識されなければならないという事実との間に、面倒な理解の混乱が生じ勝ちであり、後者に反撥して自我を主張するこ・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・ 村民の経済事情が悪化し剥脱されてゆく過程、市会議員の利権あさり、官僚的冷血、自然発生的に高まりやがて無気力な怨嗟にかわってゆく村民の心持の推移などを、作者は恐らく実地にあたって調査した上で書いているのであろう。龍三や安江などの性格化、・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・その必要な知識と手段とを許さなかった時代に要求されていた声の本質と、今日それを一般に承認している声の本質とは、同一の産児制限をめぐって、一つの声は人間的欲求であったし、一つの声は非人間的な或る意味での剥脱の声なのである。こういう現実に即して・・・ 宮本百合子 「夜叉のなげき」
出典:青空文庫