・・・このウ細い方一挺がア、定価は五銭のウ処ウ、特別のウ割引イでエ、粗のと二ツ一所に、名倉の欠を添えまして、三銭、三銭でエ差上げますウ、剪刀、剃刀磨にイ、一度ウ磨がせましても、二銭とウ三銭とは右から左イ……」 と賽の目に切った紙片を、膝にも敷・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・ この大剪刀が、もし空の樹の枝へでも引掛っていたのだと、うっかり手にはしなかったろう。盂蘭盆の夜が更けて、燈籠が消えた時のように、羽織で包んだ初路の墓は、あわれにうつくしく、且つあたりを籠めて、陰々として、鬼気が籠るのであったから。・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・一瓶の花を生けるために剪刀を使うのと全く同様な截断の芸術である。 映画成立の最後の決定的過程として編集術については以下に項を改めて述べる事とする。 映画の編集過程 たくさんな陰画の堆積の中から有効なものを選び出し・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ この摂氏四十度の暑さと蠅取り紙の場面には相当深刻な真実の暗示があるが、深刻なためにかえって検閲の剪刀を免れたと見える。 兵隊が帰って来た晩の街頭の人肉市場の光景もかなりに露骨であるが、どこか少しこしらえものらしいところもある。・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・ところが今年は剪刀で切ったり、没収したりし出した。カウィアは片側で済むが、切り抜かれちゃ両面無くなる。没収せられればまるで無くなる。」 山田は無邪気に笑った。 暫く一同黙って弁当を食っていたが、山田は何か気に掛かるという様子で、また・・・ 森鴎外 「食堂」
出典:青空文庫