・・・猛烈な恋愛を知らない。猛烈な創造の歓喜を知らない。猛烈な道徳的情熱を知らない。猛烈な、――およそこの地球を荘厳にすべき、猛烈な何物も知らずにいるんだ。そこに彼等の致命傷もあれば、彼等の害毒も潜んでいると思う。害毒の一つは能動的に、他人をも通・・・ 芥川竜之介 「一夕話」
・・・どうして、この創造的精力の奇怪な作用を、可能視なさる事が出来ましょう。それほど、私が閣下の御留意を請いたいと思う事実には不可思議な性質が加わっているのでございます。ですから、私は以上のお願いを敢て致しました。猶これから書く事も、あるいは冗漫・・・ 芥川竜之介 「二つの手紙」
・・・自由に対する慾望とは、啻に政治上または経済上の束縛から個人の意志を解放せむとするばかりでなく、自己みずからの世界を自己みずからの力によって創造し、開拓し、司配せんとする慾望である。我みずから我が王たらんとし、我がいっさいの能力を我みずから使・・・ 石川啄木 「初めて見たる小樽」
・・・造詣の深さと創造の力とは誠に近世に双びない妙手であった。十二 終焉及び内外人の椿岳蒐集熱 椿岳は余り旅行しなかった。晩年大河内子爵のお伴をして俗に柘植黙で通ってる千家の茶人と、同気相求める三人の変物揃いで東海道を膝栗毛の気散・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・井侯薨去当時、故侯の欧化政策は滑稽の思出草となったが、あらゆる旧物を破壊して根底から新文明を創造しようとした井侯の徹底的政策の小気味よさは事毎に八方へ気兼して※咀逡巡する今の政治家には見られない。例えば先祖から持ち伝えた山を拓いて新らしい果・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・ 個性を尊重しなければならぬのは、たとえ、集団的生活に於て、組織が主とされても、所詮、創造は、個人の天分に待たなければならないからです。これを考うる時に今日の画一教育が、良いとは言われないのであります。けれど、階梯として何うしても児童等・・・ 小川未明 「男の子を見るたびに「戦争」について考えます」
物が新しくそこに生れるという事は、古い形が破壊されたということを意味するに他ならない。単に破壊というと不自然のように感ずるけれども、創造というと、人々には美わしい事実のように思われる。若しも古いものが其のまゝ形を変えたものであったなら・・・ 小川未明 「詩の精神は移動す」
・・・私達は、かゝる芸術の存在理由をも、効果をも疑うものでないが、芸術は、創造であり、個的でなければならぬところに理由を置く。芸術は、感激であり、魂であるからである。 社会運動に、芸術運動に、苟くも、人間を対象とするかぎり、闘争を意味し、感激・・・ 小川未明 「純情主義を想う」
・・・を筆写したり暗記したりする勉強の仕方は、何だかみそぎを想わせるような古い方法で、このような禁慾的精進はその人の持っている文学的可能性の限界をますます狭めるようなもので、清濁あわせのむ壮大な人間像の創造はそんな修業から出て来ないのではないかと・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・のロマネスクを、低俗なりとする一刀三拝式私小説の芸術観は、もはや文壇の片隅へ、古き偶像と共に追放さるべきものではなかろうか。そして、白紙に戻って、はじめて虚無の強さよりの「可能性の文学」の創造が可能になり、小説本来の面白さというものが近代の・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
出典:青空文庫