・・・ 心痛に眉をよせて力説した。「吉岡さんに診て貰いましょう。それからでなくちゃ、わたしたち、どう暮したらいいのか分らないみたいで……わかるでしょう?」「そうしよう」 それにつけても思いおこすという風で重吉は、「――木暮の奴・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・人々は、恋愛によらない結婚の恐るべく恥ずべきことを力説する。真実の愛もない夫婦の生活が、多く、如何程の人格的偽瞞と虚偽に満ちているかを摘発する。新たな恋愛価値の創始、人格の飛躍が、一方、色情狂めいた性的好奇心の横行とともに、今日の社会には到・・・ 宮本百合子 「深く静に各自の路を見出せ」
・・・と力説しておられるが、民衆をどのような方面へ嗾しかけ、尻をくすぐってどうしようと云うのであろうか。 山本有三氏は或る意味で大衆に愛読されている作家である。しかしそれは、志賀暁子の公判に検事が「女の一生」にふれたからではなくて、山本氏が氏・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・彼が、目白の学習院へ招ばれ、フロックコオトを着て述べたところの講演は、若い公達等に、人間性の自覚の必要を力説したものであった。 漱石は、飾らない言葉で一面では日露戦争後の日本人の盲目的なヨーロッパ崇拝を罵倒し、他の一面ではヨーロッパの文・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・に育ち世事にうとく、次第に複雑化して来る近代社会の経済関係の中で、常に騙され損失を蒙る可哀そうな立場にあることを見て、婦人もやはり社会の経済に関する理解を持たなければ、家庭の安全と幸福さえも保てないと力説している。この賢明な助力者である福沢・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・よしんば実際にやりくれなくても、今日の銃後精神のためにそんな苦情をいうことは間違っていると力説をしたものであった。ある評者がその夫人の文章を女でなくては書けないひどい文章であるというのをきいた。 私たち女は女でなくては書けないような非常・・・ 宮本百合子 「私の感想」
・・・その中で最も力説せられているのは「正直」であって、その点、伝統的な思想と少しも変わらないのであるが、しかしその正直を説く態度のなかに、前代に見られないような率直さ、おのれを赤裸々に投げ出し得る強さが見られると思う。「上たるをば敬ひ、下たるを・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・特に先生が力説したのはあの像の肌の滑らかさであったように思う。あの像もまた単に色や形をのみ見るのではなくして、まさしく触感を見るというべきものである。それもただ銅のみが与え得るような、従って大理石や木や乾漆などにはとうてい見ることのできない・・・ 和辻哲郎 「岡倉先生の思い出」
・・・ それとともにもう一つ見落としてはならぬ変化は、社会組織の基礎として民衆の共同や協力を力説する思想が著しく栄えて来たことである。服従の代わりに協力。命令の代わりに協議。従ってまた個人は、社会に安全に生息するために、ある型に自分をはめ込ま・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
出典:青空文庫