・・・彼は家の焼ける前に家の価格に二倍する火災保険に加入していた。しかも偽証罪を犯した為に執行猶予中の体になっていた。けれども僕を不安にしたのは彼の自殺したことよりも僕の東京へ帰る度に必ず火の燃えるのを見たことだった。僕は或は汽車の中から山を焼い・・・ 芥川竜之介 「歯車」
・・・その頃は何に由らず彩色人の摺物は絵双紙屋組合に加入しなければ作れなかったもので、喜兵衛はこれがために組合へ加入して、世間の軽焼の袋が紅一遍摺であるに反して、板下に念を入れた数遍摺の美くしい錦絵のような袋を作った。疱瘡痲疹の患者は大抵児供だか・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・タッチイを強引に加入させると、カジョー、神戸がついてきてくれました。かくして、タッチイの命名になる『春服』が生れました。タッチイは顔がひろくて、山村、カツ西、豊野を加え、カジョーもまた努力してくれて、伊牟田氏を入れてくれました。カジョーとは・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ ここは東京市外ではあるが、すぐ近くの井の頭公園も、東京名所の一つに数えられているのだから、此の武蔵野の夕陽を東京八景の中に加入させたって、差支え無い。あと七景を決定しようと、私は自分の、胸の中のアルバムを繰ってみた。併しこの場合、芸術・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・その二年前に、勝治は生命保険に加入していた。受取人は仙之助氏になっていて、額は二万円を越えていた。この事実は、仙之助氏の立場を甚だ不利にした。検事局は再調査を開始した。世人はひとしく仙之助氏の無辜を信じていたし、当局でも、まさか、鶴見仙之助・・・ 太宰治 「花火」
・・・さればこの場合に之を云々するのは、恰も七十の老翁を捉えて生命保険の加入契約を勧告し、或はまた玉の井の女に向って悪疾の有無を問うにもひとしく、あまりにばかばかし過る事である。是亦車中百花園行を拒むもののなかった理由であろう。わたくし達は、又日・・・ 永井荷風 「百花園」
・・・憲法発布の翌年一八九〇年、大井幸子が自由党に加入することを警察が禁止し、「集会政社法」は、婦人が政治に関する演説を傍聴することさえ感じた。女学校令というものが出来て、女子教育の普及を計ると云われたのは一八九九年のことであるが、その次の年政府・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・ 一〇九 一二キルギース 八四 三タジック 三九 三 ロシア共産党員は全部で百六十六万四千八百五人だがどの位の民族別の率で加入しているか。 共和国別 ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・生産の場所でのウダールニクの価値は、はじめ何人かで組織したウダールニクによって行われる組織ある戦術が次第に一般勤労者の階級的自覚をたかめ、自発性を刺戟して、遂には工場全体をウダールニクに加入させてゆくことにこそある。宗派的に少数でかたまりき・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・そこへ加入するには必ずある一定の期間実際生産労働に従事した者でなければならないのである。レーニングラード・トラムは自身の劇場をもっている。モスクワでトラムは各クラブをまわり、彼等のリアリスティックな芸術表現で、ソヴェト勤労者が彼等の新文化建・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
出典:青空文庫