・・・もっとも偉大なる理想をもっともよく実現するものは我々生存の目的をもっともよく助長する功蹟のあるものであります。文芸の士はこの意味においてけっして閑人ではありません。芭蕉のごとく消極的な俳句を造るものでも李白のような放縦な詩を詠ずるものでもけ・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・な勝気や負けん気の女のひとは相当あるのだけれども、勝気とか負けん気とかいうものは、いつも相手があってそれとの張り合いの上でのことで、その女らしい脆さで裏づけされたつよさは、女のひとのよさよりもわるさを助長しているのがこれまでのありようであっ・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・そのひとの生れつきと教育とが互に助長しあった不幸とも思われるけれども、今日の私たちの生活の空気は、そういうことを真の悲しむべきこと、おどろくべきこととしていきなり私たちの心に訴えて来ないようなところがあって、それはあのひと一人にかかわりなく・・・ 宮本百合子 「女の歴史」
・・・ア文化建設の可能性とともに世界的な動かすことのできない事実であり、必然の勢であるにもかかわらず、昨今の文化政策は非常に巧妙な手段でインテリゲンチアをふくむ小ブルジョア層にますます小ブルジョアの無気力を助長するような自嘲、自己嫌悪を吹きこみ、・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・新聞を読むひまのないほど、わたしたちの生活を追いつめている資本主義社会のひどい現象を助長することになる。インフレーション政策もけっこうという立場の新聞を支持するとき、主婦たちは、高物価反対という自分たちの声を封じることになるのである。〔一九・・・ 宮本百合子 「主婦と新聞」
・・・すなわち、真実を愛し正義を愛し、それの味方でありそうして保証者であり、これを助長しなければならない検察当局が真実を愛し正義を愛するものを起訴する。このような不当なものをわれわれは断じて容認できないのであります。」ついで午後の法廷で、わかわか・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・ 女の虚栄心ということは、昔から一つの通俗的な世間道徳の戒めとなっており、犯罪の裏には女ありなどといわれますが、この夫人の派手ずきな気質を助長させ、またそれを可能ならしめるような周囲の事情というものが、大きい結果を生んだのだということも・・・ 宮本百合子 「果して女の虚栄心が全部の原因か?」
・・・に対して常に懐疑的であるのは尊敬すべきであるが「反対にそうした信念を尊重しつつ彼らの芸術の発展を助長することは、文明国の古代からの伝統でもあったが、現在に於てもその原則は破られない」という、今日の日本の現実に即して観た客観的効果の方面にはふ・・・ 宮本百合子 「矛盾の一形態としての諸文化組織」
・・・ヒューマニズムの理論的闡明に附随している不便や現実の展開の局限などから生じた停滞が、この傾向を助長させているのであろうし、又限界をひろくして観察すれば、そういう傾向にいつしか導き込む安易さが昨年あたりからヒューマニズム提案がなされた初期から・・・ 宮本百合子 「夜叉のなげき」
・・・塚喜兵衛種次、内藤長十郎元続、太田小十郎正信、原田十次郎之直、宗像加兵衛景定、同吉太夫景好、橋谷市蔵重次、井原十三郎吉正、田中意徳、本庄喜助重正、伊藤太左衛門方高、右田因幡統安、野田喜兵衛重綱、津崎五助長季、小林理右衛門行秀、林与左衛門正定・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫