・・・「恐らく不老長寿の薬になる――近頃はやる、性の補強剤に効能の増ること万々だろう。」「そうでしょうか。」 その頬が、白く、涼しい。「見せろよ。」 低い声の澄んだ調子で、「ほほほ。」 と莞爾。 その口許の左へ軽く・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・脳味噌は脳病に利くンのですが、膃肭臍の効能は、誰でも知っている事で言うがものはない。 疑わずにお買い下さい、まだ確な証拠というたら、後脚の爪ですが、」 ト大様に視めて、出刃を逆手に、面倒臭い、一度に間に合わしょう、と狙って、ずるりと・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・一体、この泊のある財産家の持地でござりますので、仮の小屋掛で近在の者へ施し半分に遣っておりました処、さあ、盲目が開く、躄が立つ、子供が産れる、乳が出る、大した効能。いやもう、神のごとしとござりまして、所々方々から、彼岸詣のように、ぞろぞろと・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・ 草花屋から、買ってきた殺虫液の効能書には、あり退治にもきくように記してあったが、なぜか、ありにはきくまいというような感じがしました。はたして、使用して見ると、その日だけは、ありの姿を消すが、あくる日になると、依然として、彼等は、木を上・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・そして、光ったりっぱな容器の中にはいって、ちゃんと効能書きがついている。田舎だって、もうこうした売薬は、はやらないだろうと思いました。「こうして、歩きなさって、薬が売れますかい。」と、じいさんは、ききました。「偽物が安く買われますの・・・ 小川未明 「手風琴」
・・・ 湯豆腐屋で名高い高津神社の附近には薬屋が多く、表門筋には「昔も今も効能で売れる七福ひえぐすり」の本舗があり、裏門筋には黒焼屋が二軒ある。元祖本家黒焼屋の津田黒焼舗と一切黒焼屋の高津黒焼惣本家鳥屋市兵衛本舗の二軒が隣合せに並んでいて、ど・・・ 織田作之助 「大阪発見」
・・・ 私はかつて薬の効能書に「食間服用」とあるのを、食事の最中に服用するものだと早合点して、食事中に薬を飲んで笑われたことがあるが、しかしこの煙草に関しては私はつねに「食間喫煙」であった。食事中に箸を置いて、おもむろに煙草を吸うというのは、・・・ 織田作之助 「中毒」
・・・ 四 さて私もこの哀れな子のためにはずいぶん骨を折ってみましたが、目に見えるほどの効能は少しもありませんでした。 かれこれするうちに翌年の春になり、六蔵の身の上に不慮の災難が起こりました。三月の末でございまし・・・ 国木田独歩 「春の鳥」
・・・また植物にしても左様である、庭の雑草などの名や効能なんぞを教えて下すった事が幾度もある。私の注意力はたしかに其為に養われて居るかと思います。 小学校を了えて後は一年ばかり中学校を修めたが、それも廃めて英学を修める傍、菊地松軒という先生に・・・ 幸田露伴 「少年時代」
・・・ 私だって、薬を飲むときには、まず、その薬品に添附されて在る効能書を、たんねんに読んで、英語で書かれて在るところまであやしげな語学でもって読破して、それから、快心の微笑を浮べて、その優秀薬品を服用し、たちどころに効きめが現われたような錯・・・ 太宰治 「正直ノオト」
出典:青空文庫