・・・とにかく一方では遁世守愚をすすめながらも、また一方では知識というものの効能を高く買っていることがよくわかる。第五十一段の水車の失敗は先日の駆逐艦進水式の出来損ねを思い出させる。 知識とは少しちがう「智恵」については第三十八段に「智恵出で・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
・・・もしもそれらのある商品の内容が他の類品に比べて著しく優秀であって、そうして、その優秀なことが顧客に一目ですぐわかるのであったら、広告の意義と効能は消滅するであろう。しかるに化粧品や売薬の類は実際使いくらべてみた当人にも優劣の確かな認識はでき・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・肝油その他の臓器製薬の効能が医者によって認められるより何百年も前から日本人は鰹の肝を食い黒鯛の胆を飲んでいたのである。 これを要するに日本の自然界は気候学的・地形学的・生物学的その他あらゆる方面から見ても時間的ならびに空間的にきわめて多・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ こういうふうに考えて来ると、新聞記事というものは、読者たる人間の頭脳の活動を次第次第に萎縮させその官能の効果を麻痺させるという効能をもつものであるとも言われる。これはあるいは誇大の過言であるとしても、われわれは新聞の概念的社会記事から・・・ 寺田寅彦 「ニュース映画と新聞記事」
・・・何を感じたかこの頃ではしきりに年賀状の効能と有難味を論じるようになった。今までとはまるで反対の説を述べて平気でいられるところが彼の彼らしいところを表現していて妙である。 どうも彼のいう事には順序というものがないから簡単に要領を捕捉するの・・・ 寺田寅彦 「年賀状」
・・・ こういうおどかしはしかし兼山に対する民衆の信用が厚くなければなんの効能もなくなることである。 兼山の信用があまりに厚かったためにいろいろの類似の言い伝えが、なんでもかでも兼山と結びつけられているのではないかという疑いもある。実際土・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
・・・ それでも賞翫はできますが、それを賞翫するに、局部の内容を賞翫するのと、その内容を発現するために用うる役者の芸を賞翫するのと、ほとんど内容を離れた、内容の発現には比較的効能のない役者の芸を賞翫するのと三つあるようですね。 こうなって・・・ 夏目漱石 「虚子君へ」
・・・その効能は固より御承知の事で、私などがかれこれ申すのも釈迦に何とかいう類になりますが、まず講話の順序として分らぬながら、分ったと思う事だけを述べます。こう云う修業で得る点は私の考えではまず二通りになるだろうと思います。一つは物の大小形状及び・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・ 十一月五日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より〕 大変に色が悪くて説明書の効能が発揮されませんね。今日は割合のんきな日で満開の山茶花の花を、二階からながめたりします。咲枝さんは正に今にも、というところで、うち中待機の姿勢で・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・あなたに読んでいただくずっと前に、あなたに手紙を書いたという事だけで私にはもう効能があったのです。私はこの手紙に論理的連絡の欠けている事を知っています。しかしそれはかまいません。私はもうこの手紙を書き初めた時の目的を達しました。 空が物・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫