・・・五十銭で買ってもらった釣竿を持ち、小さいなつめ形の顔の上に途方もなく大きい海水帽をかぶり――その鍔をフワフワ風に煽らせながら、勇壮に釣に出かける。彼女を堀に誘うのは、噂に聞いた鯉だ。誰も釣針を垂れないからこの堀には立派な鯉がいますよ、と或る・・・ 宮本百合子 「この夏」
・・・新聞は毎日毎日、勇壮無比な形容詞をくりかえして、前線の将士の善戦をつたえているが、現代の読者が、ああいう大ざっぱで昔風の芝居がかりな勇気というもののいいあらわしかたや、献身というものの表現を、不満なくうけとって、心持にそぐわない何ものをも感・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
・・・琵琶歌は昔の支那の詩形によっているものであるが、今日、それは勇壮活溌なる日本文化の華として、廟行鎮の武勇歌などに奨励され、中国では世界及東洋文学史の上に一つの足跡をのこす「われらは鉄の隊伍」の歌となって出て来ている。日本詩歌の形として自由律・・・ 宮本百合子 「ペンクラブのパリ大会」
出典:青空文庫