・・・一応の常識に、半信半疑という驚きで受けられた乃木夫妻の死は、あと三日ほどの間に、鴎外の心の中で、その行為として十分肯ける内的動因が見出されたのであろう。夫妻の生涯をそこに閉じさせたその動因は、老いた武将夫妻にとっての必然であって、従って、な・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・偉大な価値の評価が正当にされるようにされないということ、それが私の努力の動因です。単にまつり上げるのでなくて、一箇の芸術家は自分の才能をどのように生かして来たかどんな力ととり組み自身の矛盾ととりくんで来たかというその突き入るような分析、綜合・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・だが、仮にモーロアの述作が真の歴史の動因をときあかしているものでないことが直感されたとして、読者はほかにどんな本を見つけることが出来るのだろう。どこにより正確な解明を見出す手がかりをさがせるというのだろう。 何か知りたくて一つの本を読む・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
・・・近代社会の必然として、いくらかは日本にも生れた合理主義的な傾向、他人の考えが自分の考えと違うからと云ってそれは当り前のことと理解する自由主義の傾向、更に、歴史の進展は抑え難い必然であるとみて、その動因を社会の生産諸関係の推移、その矛盾のうち・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・文学理論は、そのものとしてとりあげられず、すでに下ゆく水の流れの上におかれて論ぜられるのであったから、論議は理論的に進まず、論点の転換点はいつも心理的な動因に立っていた。しかも、誰一人その機微につき入る親切も、辛辣ささえももたなかった。その・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・科学の真の発展の動因は原理のうちにあるとすれば、日本の若い世代がその貢献によって人類の原理を一進させ得るときが持てるように、家庭での科学教育や科学性の普及が行われることを切望する心持になる。今日の旺盛なアダプタビリティにも増す独創或は創造の・・・ 宮本百合子 「市民の生活と科学」
・・・文学の様式或は場面の模索から一歩深いところで文学が生まれて来る動因になるのではないだろうかと思います。勿論時間と忍耐の要されることです。〔一九四一年七月〕 宮本百合子 「生活的共感と文学」
・・・現代文学は、肉体文学も、社会小説も、実名小説も、きょうのわれわれの生活のこころにふれるものでないから、というのが一つの動因である。だけれども、明治文学、大正文学、そして昭和をきょうの文学まで辿り直して来る、そのことからだけ、新しい人民の生活・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・その心の動因は、人間精神の成長とその合理への方向への信頼であり、他の面からそのことを云えば、不合理なものへの承服しがたさへの確信と、その承服しがたき事象の裡から、僅かなりともより承服しやすき方向への推進の力づくし、心づくしと云うことが出来る・・・ 宮本百合子 「地の塩文学の塩」
・・・からの分離の動因ともなったハリコフ会議、一九三〇年十一月に、ウクライナ共和国首府ハリコフで行われた国際革命文学書記局第二回世界大会の日本のプロレタリア文学運動に関する決議が、この大会で一九三一年度の「ナップ」活動方針に具体的に討議されるはず・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫