・・・驟雨が今にも来ようとする前の自然は、独特に動的だ。椽側に立っている私の顔にさッと雨まじりの風がつめたく当った。風が樹々を揺る、揺る! ポプラーは狂気のように頭を振り、秋の葉を撒きちらす。松や杉は落付いているのに恐ろしい灰色雲の下で竹がざわめ・・・ 宮本百合子 「雨と子供」
・・・率直だ。動的で、生活的だ。 活溌な闘争にしたがう世界のプロレタリアートは、だから一方にはブルジョア社会への攻撃の武器として、他方には自己批判の武器として、諷刺をアレゴリーとはくらべものにならない効果で利用しているわけなのである。 プ・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・ 宗達の作品もいろいろであろうが、この作品のように清明で、精気こもった動的な美しさは、心から私たちをよろこばすものの一つだと思う。人間の艷、仕事の艷というものについて、宗達は、目から精神にそそぎ込む多くのものをもっているのである。 ・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・被動的に隠居仰せつけられその外力によって、社会関係の一部が変えられる迄は、さながら、自分からの解決の方法はないように旧態にとどまっている。ここが作者の人生態度としてもなかなか面白い点であろうと思う。忠直卿は、昔の殿様としてはびっくりするくら・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・パストゥールが、科学の示した真実についてどこまでも譲歩せず屈従せず其の真実性を守ったことから人類への福祉はもたらされたのだし、感動的な美がその物語のうちに生じたのであって、万一あれがクリスチャン・サイエンスの映画であったら、何の美しさや感動・・・ 宮本百合子 「科学の精神を」
・・・社会関係に対して動的な女性、単に習俗にしたがうよりも自分にとって人生の原則と感じられる動機によって行為を選択して生きる女性。ロマン・ロランは、アンネットによって、最も現代史を積極的に生きとおす可能をもった女性の発端の歩みを示したと思われる。・・・ 宮本百合子 「彼女たち・そしてわたしたち」
・・・台をなして実に活々と確かに歴史の現実の諸関係をつかみ出している科学者としての方法は、ミケルアンジェロの芸術の本質をはっきりと描き出しているのみならず、当時の複雑きわまる社会と芸術との活きた画が立体的に動的にくりひろげられてゆくその道すじに、・・・ 宮本百合子 「現代の心をこめて」
・・・ 物質の世界と心の世界とは、人間の文明の進むにつれて、だんだん野蛮な二元的解決から解放され、そのものの現実的でまた自然な動的な相互関係の統一のうえに理解されて来ている。 幸福というような、人間の社会生活の環境から生まれた一つの観念は・・・ 宮本百合子 「幸福の感覚」
・・・曲折にたえて、社会と個人の相互関係については、動的で柔軟な見とおしに立たなければならない必然が、こういうところからも説明されると思う。「伸子」の批判的――と云っても主として被抑圧的な者の立場からの照明を与えられている――リアリズムの方法・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・雌が、ふるくからいるものに驚かされて、やたらに籠中を逃げ廻ったり、そうかと思うと呑気そうに羽づくろいや身じまいなどをする間に、雄は、攻撃的に、動的に、自分等の住居を決めようとする。文鳥が始めて来た時などは、特にそれが著しく、自分は興深いこと・・・ 宮本百合子 「小鳥」
出典:青空文庫