・・・近優りする若い女の容色に打たれて、私は知らず目を外した。「こちらは、」 と、片隅に三つばかり。この方は笠を上にした茶褐色で、霜こしの黄なるに対して、女郎花の根にこぼれた、茨の枯葉のようなのを、――ここに二人たった渠等女たちに、フト思・・・ 泉鏡花 「小春の狐」
・・・明らかに鳥何とやら書いた額の下へついに落ち着くこととなれば六十四条の解釈もほぼ定まり同伴の男が隣座敷へ出ている小春を幸いなり貰ってくれとの命令畏まると立つ女と入れかわりて今日は黒出の着服にひとしお器量優りのする小春があなたよくと末半分は消え・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・働き者だとか、気性勝りだとか言われて、男と戦おうとばかりするような毅然した女よりも、反って涙脆い、柔軟な感じのする人の方が好ましい。快活であれば猶好い。移り気も一概には退けられない。不義する位のものは、何処かに人の心を引く可懐みもある。ああ・・・ 島崎藤村 「刺繍」
・・・前に示したる鉱山の歌のごときは調子ほぼととのいたり、されどこれほどにととのいたるは集中多く見るべからず、ましてこれより勝りたるはほとんどあるなし。書中乾胡蝶からになる蝶には大和魂を招きよすべきすべもあらじかし 結・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
出典:青空文庫