・・・ お源は負けぬ気性だから、これにはむっとしたが、大庭家に於けるお徳の勢力を知っているから、逆らっては損と虫を圧えて「まアそれで勘弁しておくれよ。出入りするものは重に私ばかりだから私さえ開閉に気を附けりゃア大丈夫だよ。どうせ本式の盗棒・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・常識的ではあるが実際の社会に影響を及ぼし、主義を実現する勢力の強いことはアングロ・サクソンの政治の如くである。しかしわれわれはそれに眩惑されてはならぬ。幸福主義は決して道徳の究竟ではない。依然として第二義的の価値である。何が幸福かと問うとき・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ 資本主義がすさまじい勢力を以て発展して、国際的威力として、プロレタリア階級に迫ってきた時、労働者階級の中から、吾々自身のインタナショナル的な組織体を作って、資本主義に対抗しようとした。それが、国際的労働者団結である。 プロレタリア・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・イイカネ、「物は或勢力より追やらるる時は螺線的にすすむ」というのが真理だよ、この真理を君に実例で示そうか。吹矢の筒に紙の小さい片を入れて吹いて見玉え、その紙は必らずぐるぐる回りながら飛出すよ。水の中に石を落して見玉え、これもぐるぐるまわりな・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
・・・されど、実体の両面たる物質と勢力とが構成し、仮現する千差万別・無量無限の形体にいたっては、常住なものはけっしてない。彼らすでに始めがある。かならず終りがなければならぬ。形成されたものは、かならず破壊されねばならぬ。成長する者は、かならず衰亡・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・当時巌本善治氏の主宰していた女学雑誌は、婦人雑誌ではあったが、然し文学宗教其他種々の方面に渉って、徳富蘇峰氏の国民の友と相対した、一つの大きな勢力であった。北村君を先ず文壇に紹介したのは、この巌本善治氏であった。『厭世詩家と女性』その他のも・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
・・・この人のおかげでシラキュースは急にどんどんお金持になり、島中のほかの殖民地に比べて、一ばん勢力のある町になりました。 それらの殖民地の中には、アフリカのカーセイジ人が建てた町もいくつかありました。シラキュースはそのカーセイジ人たちと、い・・・ 鈴木三重吉 「デイモンとピシアス」
・・・私には、なんにも知らせず、それこそ私の好きなように振舞わせて置いてくれましたが、兄たちは、なかなか、それどころでは無く、きっと、百万以上はあったのでしょう、その遺産と、亡父の政治上の諸勢力とを守るのに、眼に見えぬ努力をしていたにちがいありま・・・ 太宰治 「兄たち」
ウィインで頗る勢力のある一大銀行に、先ずいてもいなくても差支のない小役人があった。名をチルナウエルと云う小男である。いてもいなくても好いにしても、兎に角あの大銀行の役をしているだけでも名誉には違いない。 この都に大勢いる銀行員と云・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・カルネラはそんなことなどは問題にしないと見えて絶えず攻勢を持続するのはよいが、やみなしに中庸な突きを繰り返しているのは、仕事の経済から見ても非常に能率の悪いしかたで、無益の動作に勢力をなしくずしに浪費しているように見えるのであった。ベーアは・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
出典:青空文庫