・・・けれどもいちど、同じ課に勤務している若い官吏に夢中になり、そうして、やはり捨てられたときには、そのときだけは、流石に、しんからげっそりして、間の悪さもあり、肺が悪くなったと嘘をついて、一週間も寝て、それから頸に繃帯を巻いて、やたらに咳をしな・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・ 圭吾は、すぐに署長の証明書を持って、青森に出かけ、何事も無く勤務して終戦になってすぐ帰宅し、いまはまた夫婦仲良さそうに暮していますが、私は、あの嫁には呆れてしまいましたから、めったに圭吾の家へはまいりません。よくまあ、しかし、あんなに・・・ 太宰治 「嘘」
・・・大学を卒業して雑誌社に勤務するようになってからも同じ事で、大隅君は皆に敬遠せられ、意地の悪い二、三の同僚は、大隅君の博識を全く無視して、ほとんど筋肉労働に類した仕事などを押しつける始末なので、大隅君は憤然、職を辞した。大隅君は昔から、決して・・・ 太宰治 「佳日」
・・・けれどもいちど、同じ課に勤務している若い官吏に夢中になり、そうして、やはり捨てられた時には、その時だけは、流石に、しんからげっそりして、間の悪さもあり、肺が悪くなったと嘘をついて、一週間も寝て、それから頸に繃帯を巻いて、やたらに咳をしながら・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・その看護婦の生理条件に応じて病室から医局勤務など、無理のない部署に配置されて八ヵ月までつとめます。産前二ヵ月、産後二ヵ月、有給休暇をとります。そして居住地域の産院、母子健康相談所が、若い母と子との健康のために助力します。これは、工場や官庁に・・・ 宮本百合子 「生きるための協力者」
・・・そして、しばしば考えた。勤務する大多数の男女は激しく長い時間の労働によって疲れ、恐らく想像しているより遙かにつよい程度で色彩の感覚を麻痺されているのであろうが、プロレタリア美術のために努力している画家たちははたしてどのくらいまでそれを実感と・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・ メーデー警戒で、看守は四十八時間勤務をさせられている。今年のメーデーは特別神経過敏で、警官を半数ずつトラックに載せて一時間おきにつみかえ、待機するようにという説があった。しかし、それも余り仰々しいというのでトラックを準備するだけになっ・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・六人が二十四時間を三交代の八時間勤務で働く。ターニャは夜の当直には来なかった。二十歳である。彼女の夫は国立音楽学校でバリトーンをやっている。ターニャは暇があると当直室の机へむき出しの腕をおっつけて代数を勉強した。毎晩六時から十一時まで彼女は・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・かかる観念の上に道を求めたヒューマニズムが、日常不本意な勤務や労働や従順を強いられている一般市民の人間性に、その生き方として行動の指針となり得なかったのは当然であった。 三木氏によって云われた「主観性の昂揚」と「理論への情熱」という標語・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・工業化債権に、スモーリヌイの勤務者が何ルーブル応募したとかいう報告が書かれている。―― 壁新聞は、СССРじゅう至るところの役所、工場の職場、学校で発行されている。大抵、手書きである。漫画、写真をはったの、新聞雑誌からの切りぬきを編輯し・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
出典:青空文庫