・・・土耳古人たちは、みんなまっ赤なターバンと帯とをかけ、殊に地学博士はあちこちからの勲章やメタルを、その漆黒の上着にかけましたので全くまばゆい位でした。私は三越でこさえた白い麻のフロックコートを着ましたが、これは勿論、私の好みで作法ではありませ・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ ばけもの世界長からは、毎日一つずつ位をつけて来ましたし、勲章を贈ってよこしましたので、今はその位を読みあげるだけに二時間かかり、勲章はネネムの室の壁一杯になりました。それですから、何かの儀式でネネムが式辞を読んだりするときは、その位を・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・老藤村が、文化勲章の制定に感激しつつ、いまだ文学が一般の人、特に政治家に分っていないこと、そのためにこのよろこびが些かほがらかならざることに遺憾の心をのべているのは味わうべきところであった。文化勲章は従軍徽章でないのである。藤村が、文学者の・・・ 宮本百合子 「「大人の文学」論の現実性」
・・・「あなた大働きだから、勲章にこれさし上げます」「おやまあ」 お清さんは、笑いながらそれを戴いた。「恐れ入ります。じゃ、いただいといて家宝にでも致しましょう」 真面目腐って立ち上ったが、座敷を出ながら、「でも本当に可愛・・・ 宮本百合子 「毛の指環」
・・・今度出版される昭和十四年度の『雑誌年鑑』の見本の一隅に、文化、文芸賞要覧というのがあって、そこを見たら帝国学士院賞や文化勲章までを入れて凡そ二十二種の賞の名が並んでいた。数の上では文運隆盛の趣を示しているかのようである。 一体、日本の現・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
本年の建国祭を期して文化勲章というものが制定された。これは人も知る如く日本で始めてのことである。早速絵では竹内栖鳳や横山大観がその文化勲章を授与され、科学方面でも本多博士その他が比較的困難なく選ばれた。文学の分野に於ては、・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ 文芸懇話会が、文学の隆盛のための組織としてはそれ自身矛盾を包んでいることは既に明らかにされたのであったが、一九三七年という年は、更に建国祭を期して文化勲章が制定せられ、帝国芸術院というものが設立され、文芸懇話会は創立四年目に発展的解消・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・薄色の髪の毛を簡単な断髪にして、黒っぽい上衣の胸に、彼女の功績を語る勲章がさげられている。衿もとには、昔のソヴェトに決して見られなかった美しいレースの衿がのぞいている。オルガ・ベルホルツの写真の中の顔は、私たちを感動させる表情をたたえている・・・ 宮本百合子 「新世界の富」
・・・のなかの最も皮肉で愉快な場面、よだれをたらした赤坊のラマに帝国主義国の将軍が勲章をつけてお辞儀したり、おべっかつかったりする場面、反宗教的な場面をあらかた切ってしまってあった。暖いぷかぷかな場席へ、所謂シークなパリの中流男女、金をつかいに来・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・地方の軍隊は送迎がなかなか手厚いことを知っていたから、石田はその頃の通常礼装というのをして、勲章を佩びていた。故参の大尉参謀が同僚を代表して桟橋まで来ていた。 雨がどっどと降っている。これから小倉までは汽車で一時間は掛からない。川卯とい・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫