・・・Y、繃帯の上からたたきながら「大丈夫、何でもない、ね、ね」と気休めを求めていたが、昨日は気分悪く、目が醒めたら発熱していた。K氏からの紹介で、長崎図書館長、永山時英氏を訪ねる予定なのであった。私は独り俥で出掛けた。 図書館は、諏訪公園の・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・宮様と同じ隊であった息子が、前線で戦死したことを息子の余栄として、皇后の巻かれた繃帯で、わが良人、わが子のもがれた手足がくるまれ、目しいた眼が包まれることで、日本の女性の苦悩と疑惑とが感涙によって洗い流されなければならなかった。恩賜の義足、・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・耳から頭へ大きく白く繃帯をかけた、どっちかというとこわい顔の大柄の叔父の病床のわきで、母は叔父の口述する話を書きとったりしてもやったらしい。けれど、この計画は到頭実現しなかった。それというのは、何しろこの省吾という人は、鱗のない魚はたべない・・・ 宮本百合子 「本棚」
出典:青空文庫