・・・ そのとき、ひとり隣に並んで腰をかけている北川だけは、笑いもしなければ、じっとしてまゆひとつ動かさず、まじめにきいていました。小田は、心の中で、彼の態度をありがたく思ったのです。 小田のお父さんは、もう死んでしまって、ありませんでし・・・ 小川未明 「笑わなかった少年」
・・・いや、この前、北川冬彦氏から五六行の葉書を貰った時だけです。然し、ほんとうは、生れてはじめて、こんな長い手紙かいた。もう、ねましょう。シェストフでも読みましょう。どうか/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\どうか、どうか、御手紙下さい・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ 五日ほど経った早朝、鶴は、突如、京都市左京区の某商会にあらわれ、かつて戦友だったとかいう北川という社員に面会を求め、二人で京都のまちを歩き、鶴は軽快に古着屋ののれんをくぐり、身につけていたジャンパー、ワイシャツ、セーター、ズボン、冗談・・・ 太宰治 「犯人」
・・・ 北川三郎氏の訳による大系二冊は、努力の仕事であると思うが、本が大きくて机の上にどっしりとおいて読まなければならない不便があり、高価でもある。それに、この訳にはところどころに訳者插入の研究が自由にさしはさまれていてそのような研究に特別の・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・費用も大概出来たので、近いうちに北川という若い医学士に跡を譲って、出発すると云っている。富田院長も四十は越しているが、まだ五分刈頭に白い筋も交らない。酒好だということが一寸見ても知れる、太った赭顔の男である。 極澹泊な独身生活をしている・・・ 森鴎外 「独身」
出典:青空文庫