・・・工科は数学が要るそうだからやめた。医科は死骸を解剖すると聞いたから断った。そして父の云うままに進まぬながら法科へはいって政治をやった。父は附け焼刃はせぬ/\と思いながら、ついに独り子に附け焼刃の政治科を修めさせた事になる。しかしこれは恐らく・・・ 寺田寅彦 「枯菊の影」
・・・急病でも起こったらしいような口ぶりなので、まず取りあえずN教授に話をして医科のM教授を同伴してもらう事を頼んでおいて急いでS軒に駆けつけた。 ボーイがけさ部屋をいくらたたいても返事がないから合いかぎでドアを明けてはいってみると、もうすで・・・ 寺田寅彦 「B教授の死」
・・・ 昔の医科大学の時計台もとくに無くなった。去年札幌へ行って、明治時代の時計台建築の遺物を見て涙が出そうな気がした。年を取ると涙腺の居ずまいが変ると見える。「鉄門」も塞がれた。鉄門という言葉は明治時代の隅田川のボートレースと土手の桜を・・・ 寺田寅彦 「病院風景」
・・・、そして時々工合が悪いと云っては梯子の上り下りの苦しそうな事があり、また力無い咳をするところなどを見るとあるいはと思う事があって友に計ったが、この家に数年前から泊っていて、ほとんど家内同様になっている医科の男があってそれが一向引越しもしない・・・ 寺田寅彦 「雪ちゃん」
・・・日本女の患者の室へ、大学医科三年生が男女六人医師に引率されて入って来た。 白衣の下に女子青年共産党の服をつけた赤い顔の娘が臨床記録を書くための質問を始めた。病症の経過。生年月日 職業 過去の健康状態 父母と弟妹の健康状態――祖父さん・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
出典:青空文庫