・・・西洋人のおおぜい乗った自用車らしいのが十字路を横から飛び出してわれわれのバスの後部にぶつかったのであった。この西洋人の車は一方の泥よけがつぶれただけですみ、われわれのバスは横腹が少しへこんでペイントがはがれただけで助かった。肥った赤ら顔の快・・・ 寺田寅彦 「あひると猿」
・・・二人は幾つかの角を曲った挙句、十字路から一軒置いて――この一軒も人が住んでるんだか住んでいないんだか分らない家――の隣へ入った。方角や歩数等から考えると、私が、汚れた孔雀のような恰好で散歩していた、先刻の海岸通りの裏辺りに当るように思えた。・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・ 私共は、快活な散歩者らしい様子で気軽に十字路を横切った。そして、鋪道に溢れるような人出に紛れ込もうとした時、私はふと、山崎の陰鬱に光る大飾窓の向い合った処に、一人日本人でない露店商人がいるのに目をつけた。 そこは私が見てさえ、商売・・・ 宮本百合子 「粗末な花束」
出典:青空文庫