・・・教科書がまだ来ないので明日もやっぱり実習だという。午后はみんなでテニスコートを直したりした。四月二日 水曜日 晴今日は三年生は地質と土性の実習だった。斉藤先生が先に立って女学校の裏で洪積層と第三紀の泥岩の露出を見てそ・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・その真正面に、もう一冊の活動写真雑誌をひろげて篤介が制服でいた。午後二時の海辺の部屋の明るさ――外国雑誌の大きいページを翻す音と、弾機のジジジジほぐれる音が折々するだけであった。 陽子の足許の畳の上へ胡坐を掻いて、小学五年生の悌が目醒し・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・ 次の日、午後一時ごろ、マリウスボーメルという百姓がイモヴィルのウールフレークにその手帳とその内にあった物とを返しに来た。この百姓はブルトンの作男でイモーヴィルの市場の番人である。 この男の語るところによれば、かれはそれを途上で拾っ・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・八時に出勤したとき一杯と、午後勤務のあるときは三時頃に一杯とは、黙っていても、給仕が持って来てくれる。色が附いているだけで、味のない茶である。飲んでしまうと、茶碗の底に滓が沢山淀んでいる。木村は茶を飲んでしまうと、相変らずゆっくり構えて、絶・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・さて午後十一時になっても主人の家には帰らないで、とうとう町なかの公園で夜を明かしてしまった。女中は翌日になって考えてみたが、どうもお上さんに顔を合せることが出来なくなった。そこでこの面白い若者の傍を離れないことにした。若者の方でも女が人がよ・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・ ある日の午後、梶の家の門から玄関までの石畳が靴を響かせて来た。石に鳴る靴音の加減で、梶は来る人の用件のおよその判定をつける癖があった。石は意志を現す、とそんな冗談をいうほどまでに、彼は、長年の生活のうちこの石からさまざまな音響の種・・・ 横光利一 「微笑」
・・・ 初めて早稲田南町の漱石山房を訪れたのは、大正二年の十一月ごろ、天気のよい木曜日の午後であったと思う。牛込柳町の電車停留場から、矢来下の方へ通じる広い通りを三、四町行くと、左側に、自動車がはいれるかどうかと思われるくらいの狭い横町があっ・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫